科学としての心理学

チャルディーニの名著『影響力の武器』の続編『影響力の武器 実践編』が届いたので、早速読み始めています。前作からずいぶん待たされたけど、その分期待を裏切らない。楽しー。 タイトルだけ見ると怪しげなビジネス書のような印象を受けますが、そんなのと…

殺したのがブスだったら…:小谷野敦『美人好きは罪悪か』

いまの日本で公然と差別することが許されている領域は、学歴と年齢と容姿です。「公然と」の意味合いは、だいたい「テレビのバラエティ番組を見ていると出てくる」というのと同義です。クイズ番組では「高学歴」と「低学歴」でチームわけをするのは普通だし…

鈴木亘『だまされないための年金・医療・介護入門』補遺

tonnyさんという方から、以前、鈴木亘さんの『だまされないための年金・医療・介護入門』を紹介したエントリに対して、「積立方式のデメリットを説明しないまま積立方式を礼賛するのはフェアではない」というトラックバックをいただきました。これはもっとも…

幸福を秤にかけよう:ハロルド・ウィンター『人でなしの経済理論』

1978年、アメリカでフォード社のピントという車を運転していた 16 歳から 18 歳の 3 人の女の子が、他の車に追突されて死亡する事故がおきました。この事故を担当した検事は、前例のないことをやります。フォード社を無謀殺人罪で告訴したのです。一般にフォ…

盛者必衰って本当ですか:クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』

当時、客に何が欲しいかと訊ねたら、速い馬がほしいと言われただろう。 ―― ヘンリー・フォード(自動車メーカーのフォードの創業者) ある企業が、まったく無名のベンチャーやバラック同然の町工場から出発して、ライバルとの数々の闘いに打ち勝ち、業界を代…

損得勘定が地球を救う:ビョルン・ロンボルグ『地球と一緒に頭も冷やせ!』

ロンボルグの名前は、もういまさら私なんかが宣伝する必要はないでしょうが、それでもこの本はやっぱり紹介しておきたい。地球温暖化を含む環境問題について何かを考え、論じるときの、一番基本的な「スタンス」を教えてくれる本だからです(そして実は、そ…

だまされる側の責任:鈴木亘『だまされないための年金・医療・介護入門』

先月、厚生労働省が年金給付水準「50%台可能」とする試算を発表したとき、その前提条件の甘さが話題になりました。その条件とは、 名目賃金が毎年2.5%上昇する。 年金積立金は4.1%の利回りで運用できる。 合計特殊出生率は1.26で推移する。 これは「中位」の…

負け組みのリアリズム:西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』

私が西原理恵子の本を最初に読んだのは、高校生のとき。『まあじゃんほうろうき』という連載物のルポ(?)でした。ある意味、非常に鮮烈な印象を受けたのですが、それは別にこの本がすばらしくて心うたれたとか、そういうものではなく、むしろほとんど誉め…

新入生のための宗教ガイド:島田裕巳『平成宗教20年史』

ほとんどの人が無神論(というか無宗教)の日本人にとって、ナマの宗教(特に新宗教)に初めて向き合う経験をする場所は、大学のキャンパスでしょう。地方から出てきたばかりで頼れる知人もなく不安でいっぱいの新入生は、宗教の側から見ても格好の勧誘標的…

毒入りピースミール工学:パオロ・マッツァリーノ『日本列島プチ改造論』

日本が誇る謎のエンタメ系学者マッツァリーノ待望の新刊が発売され、先ほど一気読みを終えました。この人は私にとって、「ワクワクしながらページをめくる」という得がたい経験をさせてくれる数少ない書き手の一人です。寡作なのが惜しいけど、でもその分ク…

サンソンの奇妙な冒険:安達正勝『死刑執行人サンソン』

日本で死刑執行人と言えば、時代劇によく出てくる「首切り浅」こと山田浅右衛門が知られています。彼は江戸から明治に活動(というのもおかしいけど)した人物ですが、時代と場所を問わず、死刑制度あるところにまた処刑役人もあるわけで、現代の日本でも、…

下流フェミニズム宣言:小倉千加子『結婚の条件』

フェミニズムが女性が自立することを説き、自由を求めることを支援するイデオロギーだ、ということは、今では皆さん(頭では)ご存知でしょう。でも、そのフェミニズムにも上流と下流があるということは、あまりおおっぴらには語られません。具体的に名指し…

受験国語の必勝法、教えます:石原千秋『秘伝 中学入試国語読解法』

さて、そろそろ受験シーズンも佳境に入ってまいりましたね。本日は、珍しく速攻で受験(もっと狭く言うと中学受験の国語)に役立つハウツー本を紹介いたしましょう。受験生諸君および親御さんは必見ですぞ。その名も『秘伝 中学入試国語読解法』。新潮選書と…

早すぎた文化人類学者:ハーマン・メルヴィル『白鯨』

この小説を私が初めて読んだのは、中学生のとき。そのときは、海洋冒険小説としてしか読むことができませんでした。いや、確かに海洋冒険小説でもあるし、そのジャンルでも第一級の作品で、十分楽しく読むことはできたのですが、でも、それはこの小説の一部…

暗く狭いバケツの底:町山智浩『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』

『ER』の第2シーズンを見ていたとき、二つ、アメリカ特有の社会事情が背景にあって理解できなかったシーンがありました。一つは、貧民街のアパートでアタマの弱い主婦が何かの薬品を製造していたことが原因で火事が起きるエピソードなのだけど(救急隊員のラ…

歌われなかった者たちへの賛歌:福岡伸一『できそこないの男たち』

福岡伸一『できそこないの男たち』を読了。前作『生物と無生物のあいだ』が消化にまつわる謎から生物の本質に迫る名著だったのに対し、今回はヒトゲノムにおける男性決定因子であるY染色体の仕組みとその発見にまつわる科学者たちのドラマがテーマ。前作の熱…

やっぱり欧米か:渡辺利夫『新脱亜論』

リーマン・ブラザーズの破綻によるアメリカ経済の混乱は、まだ収まる気配を見せません。これがアメリカにとって致命傷になるとは思えないけど、でも9.11以来の大打撃であることは間違いない。傷痕は長期にわたって残るかもしれない。 アメリカもそろそろ終わ…

憧れと恨みと:竹内洋『丸山眞男の時代』

竹内洋『丸山眞男の時代』を読了。非常に面白かった。私が学生の頃は、ちょうど丸山眞男の没後すぐということもあって追悼特集が多く組まれ、丸山は ―― 時代が時代なのでさすがに素直な読み方はされなかったけど ―― けっこう学生にも読まれていました。今は…

労働とセックスの怪しい関係:玄田有史・斉藤珠里『仕事とセックスのあいだ』

現在の少子化の一因は、労働環境の悪さにあるのではないか、という意見は、前からたびたび出てはいました。誰だって毎晩10時、11時まで働いてクタクタに疲れて帰ってきた後にセックスに励む元気なんてないし、90年代以降の不況で、一人あたりの労働時間が大…

犯罪者の機会損失を増やすには:谷岡一郎『こうすれば犯罪は防げる 環境犯罪学入門』

さて突然ですが、犯罪とセキュリティについての○×問題です。次の文が合っているか間違っているか、できれば理由とセットで考えてみてください。 同じ学校にバスと電車で通学する高校生では、バスで通学する子供の方が万引きに走りやすい。 マンションやアパ…

つまらない学問は、罪である:パオロ・マッツァリーノ『反社会学講座』

社会学。これほど人によって抱くイメージに開きがある学問も、そうそうないでしょう。私自身、大学時代に社会学専攻の人々の話を何度か聞く機会がありましたが、その無節操に広大な関心領域と、ほとんど実証性があるとは思えない、いい加減な方法論に圧倒さ…

Run & Gun――武装市民のユートピア:佐々木俊尚『ネットvs.リアルの衝突』

アメリカ人に「なぜ銃を持つのか」と訊ねれば、その答えは十中八九が「自衛のため」というものでしょう。これはそれなりに彼らの実感を代弁する言葉ではあるのだけど、でもその場合問題になるのは、「一体誰から身を守ろうとしているのか」ということです。 …

怠け者でGO!:バートランド・ラッセル「怠惰への賛歌」

久々に翻訳のストックから手ごろな長さのを一つ。題名からして反抗的なラッセル「怠惰への賛歌」。 「労働は1日4時間でちょうどいい。それ以上働くと体によくないしバカになる」 「勤勉の美徳は産業革命以前の遺物なので、現代でこれを信じている国はまだ先…

幻想としての戦争:長山靖生『日露戦争―もうひとつの「物語」』

私たち日本人の大半は、幸いにして(これが「幸いにして」でないとは、誰にも言わせない)リアルな戦争というものを知りません。頻発するアフリカの内乱や近年立て続けに起きたアフガン、イラクにおける戦争も、私たちはみんな戦場を実地に経験したわけでは…

MEN WITHOUT WOMEN:『クローズ』『ワースト』

『クローズ』の映画版には、ヒロインがいるんですね。ビデオ屋でパッケージを見て初めてしりました。女優は黒木メイサさん、ていうの?どこの映画会社か知らないけど、ずいぶんもったいないことをする。 女が一人も出てこない、というのが原作の最大のとりえ…

大人のためのデータベース講座:『XML-DB開発 実技コース 』

ご案内のとおり、リレーショナル・データベースは、非常に堅牢で完成度の高いモデルに立脚した体系です。「ドッグ・イヤー」とも称されるほど変化の目まぐるしいシステム業界において、40年間ほとんど基本的な枠組みに変更が生じていない。こんな「枯れた」…

そ連とソ連

本屋をぶらぶらしていたら、白水社、晶文社、平凡社など独自の文庫を持っていない人文系出版社が共同でソフトカバーの書籍を作る四六判宣言のフェアをやっていたので、ちょっと覗いてみました。宣言文には「敢えて売り捨ての文庫にはしない」という勇ましい…