夏の似合う男

 暑い日が続きますが、皆さん体調の方はだいじょうぶでしょうか。梅雨明けが遅かったせいで7月までが割と涼しかったので、ギャップが苦しいですね。

 ずっと読みたいなーと思っていた内田さんご推奨の渡辺京二『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー)の古本を、近所の古本屋で半額の1000円でゲット。「そろそろ読む本も切れたし、ネットで注文しようか」と思っていた矢先、なんというジャストタイミング。渡辺さんは『北一輝』(ちくま学芸文庫)が面白かったので、今回もワクワクします。600ページを超す恐ろしく分厚い本なので、しばらく楽しめそうです。


 竹中労断影 大杉栄』(ちくま文庫)を読了。いい本でした。ユーモラスで生き生きした筆致が、大杉の「躍動する生命」そのものの人生とよく合う。恋愛スキャンダルの人間臭い部分についても、教条的に割り切ったり全面肯定するのではなく、淡々とつきあってあげるところが良い(でも本人も言うように、この分野は苦手みたいね)。

 それにしても、筆者に指摘されてはっとしたのですが、私たちは「近代の夜明け」である幕末から明治や「激動と暗黒」の昭和についてはよく知っているし、この時代を語る読み物はたくさんあるのに、その間に挟まれた「大正」という時代については妙に印象が薄い。「明治の付録、あるいは昭和の前座」のような扱い、とは言いえて妙。しかし実際には、第一次大戦ロシア革命米騒動関東大震災と、内外で大事件が頻発する騒擾に満ちた時代だったのです。

 まだ「日本」という体制も固定されておらず、色んな可能性がリアリティをもって模索されていた時代。混乱もあったけど、その分風通しもよく、札付きの過激派である大杉もなぜか北一輝頭山満と交流がある。内務大臣(いまの警察庁長官みたいな役職)の後藤新平が大杉に軍資金を渡していた、という話など、今の私たちの感覚からはちょっとありえない。

 自分も「祭りの季節」に居合わせてみたかったな、と心を熱くさせる本でした。なだいなだの、肩肘張らずに本質を簡潔にまとめてみせた解説文も秀逸。