命の選択

 何気なく見ていたNHKスペシャルトリアージ特集が凄くて最後まで見てしまった。
 最大多数を救うためには間違いなく効果的なシステムではあるけど、これを現場で判断する医師の心理的負担は想像するだに重い。もし自分が「黄」のタグ(「赤」より搬送の優先順位が低い)をつけた患者が、時間の遅れが原因が死んでしまったら、どれほど後悔するだろう? それでも最善の判断をしたと、果たして自分を納得させられるだろうか? 私には全く自信がない。

 そして何より、番組の中でも課題として取り上げられていた深刻な問題がある。「黒」のタグを付けられるということは、その場で死亡宣告を出されるのと同じこと。そのタグには、他の色のタグと違って往々にして何も記入されない。治療を施す必要がないという判断なのだから、論理的に考えれば記入するのは時間の無駄だからです。特に一刻を争う災害現場では、「黒」に長い時間を割くよりは助けられる命にリソースを集中するのは、全く合理的な判断ではある。その判断を責める気にはなれない。それでも、遺族にとって、犠牲者の最期を知る唯一の情報はこの「黒」のタグだけ。もし自分の近しい人が災害に巻き込まれて死亡し、残された最期の情報が未記入の黒いタグだけだったとき、その死をうまく受け入れられると思うでしょうか?

 難しいだろうな、と思います。どうしてもその人が「見捨てられた」という感情はぬぐいきれないでしょう。合理的でないといわれようとなんだろうと、心がそのように感じるのは事実である以上、どうしようもない。今後は、その不合理な事実も織り込んだ形での運用がトリアージには求められていくことでしょう(実際、そういう取り組みが既に始まっていることも番組内では紹介されていた)。クオリティの高い番組だった。