二十歳の献金

 小沢代表と民主党が、小沢代表の第一秘書逮捕で揺れています。この時期の逮捕には、あるいは民主党が言うように政治的圧力が働いているかもしれない。でもそういう政局の話や事件の詳細については、多くの識者がコメントするでしょうから、私はもっと一般的な構造の問題を考えてみたいと思います。「政局より政策」というやつです。

 日本の政治は、しばしば企業からの政治献金(企業献金)に邪魔をされてきました。金丸信が失脚し、小沢代表も絡んでいた東京佐川急便事件リクルート事件やがそうだったし、遡れば古くはロッキード事件もそうでした。

 こうした汚職がなくならない根本的な原因は、日本の政治家への献金のうち、企業献金の比率が高すぎることです。直接政治家への企業献金は禁じられていますが、実質的には変わらない。政治に金がかかるのは事実だし、企業が大口の献金をしてくれる上得意なのは確かですが、しかしそれに頼りすぎると、政治家は常に知らないうちに懐に爆弾を抱えるリスクを背負い込む。これを打破するためには、個人献金の比率を増やせばいいのです。民主主義の理念としても、本当は政治家や政党には、支持する個人が献金をするべきだし、事実、アメリカではオバマ大統領が先の選挙で集めた献金の額は 2億6600万ドル(約274億円)ですが、そのうち 75% は個人献金によるものです。総理を狙える位置にいる小沢氏の政治資金が全体で約 13 億円と言われていることからも、アメリカの個人献金の大きさが分かります。

 企業や労働組合など団体からの献金の大きな問題点は、献金が構成員の利害を必ずしも代弁しないことです。例えば今回の事件では、西松建設の社員の所得が政治団体からの献金に流用されている疑いがもたれています。社員が全員、民主党支持者なら問題ないけど、そんなことはありえない。自民党支持者の社員は、自分の知らない間に所得を敵対政党への献金に使われたことになります(余談ですが、労働組合からの献金にも同じ問題が存在します。組合は割と民主党献金しているところが多いのですが、民主党を支持していない組合員も同じように負担を強いられている)。

 一方、個人献金の難点は、コストパフォーマンスです。一人頭の献金上限額は、アメリカでも数万円程度に制限されているので、10人とか100人からもらっても腹の足しにはなりません。大勢から「薄く広く」集める必要がある。これが面倒なので、今までの政治家は個人献金にあまり積極的ではなかった。でもオバマ大統領は、ネットを利用して安価に大勢からの献金を集めることに成功しました。具体的には、大手 SNSFacebookに自分のページを開設して、そこで献金を募るというお手軽な方法。コストはほとんどゼロですが、絶大な効果があった。当初は、元ファーストレディーの人脈に頼った資金集めをしていたヒラリーに及ばなかった献金額は、あれよあれよという間に膨れ上がり逆転してしまった。慌てたヒラリーもオバマの真似をしたのですが、ついに一歩及ばなかった。

 このオバマ大統領の戦術をなんと呼ぶか、皆さんもうお分かりでしょう。そう、ロングテールですね。彼は色んな意味で革命児ですが、政治の世界にネットのモデルを持ち込んだ点もまた凄かった。今後アメリカでは、企業や団体からの献金が占める重要性は低くなるでしょうし、それは政治家にとってもメリットが大きい。圧力団体にへいこらしなくていいし、ヤミ献金に手を出す代わりにネットで献金を呼びかければいいからです。(オバマの戦術については吉原欽一『アメリカ人の政治』の第4章「アメリカを動かしているのは誰か」がよくまとまっています)

 日本でも同じような構造改革は決して不可能ではない。と思う。思うのだけど、そのためには政治にネットを持ち込まないといけない。オフラインの個人献金には限界があります(「わしの人脈はヒラリー以上じゃ」というのなら別だけど)。しかし、これに日本の政治家が非常に及び腰なのが、まずは最大の問題です。民主党も以前は「政治にネットを」という姿勢を見せていたけど、最近ひっこめてしまった。でもせっかくだから、今回の事件を教訓としてもう一度検討してもらいたい。そうしたら、こんな風に痛くない(多分)腹を探られることもないですよ。