神は渇く

 アフリカ訪問中のローマ法王が「コンドームはエイズ蔓延の防止策にならない」と発言したことが波紋を広げています。当たり前だけど、WHO や各国政府が早速批判している。日本政府は・・・興味ないだろうな。

 この発言は、ショッキングなものではあるけど、でもローマカトリックとしては昔からの「公式見解」です。なぜ法王がコンドームの使用に難色を示すかというと、本人もポロッと述べているように、根本の問題は性病予防ではなく避妊にあります。簡単に避妊できる -> 不特定多数との SEX (姦淫)を助長する、というロジックのため、カトリックはコンドームを目の敵にしているのです(言うまでもなく姦淫は十戒の禁止事項の一つです)。同宗派が認める唯一の避妊方法はオギノ式ただ一つ。コンドームの使用も中絶も、カトリックにとってはご法度です。

 子供を性感染症や望まぬ妊娠から守るために、コンドームなどの道具に頼らず、ひたすら禁欲だけを説く教育方法(これを方法と呼ぶのならばだが)を、絶対禁欲教育(Abstinence-only sex education)と言います。カトリック右派の主張はほぼこの手の精神論で、アメリカでもブッシュ政権下でこの教育を支援するために莫大な税金が投入されました。しかしその結果、SEX の恐怖を子供に刷り込むため「 HIV は涙や汗で感染する」とか「性器が触れ合っただけで妊娠する」といった非科学的な嘘を教える学校まで出る始末です。そして当初の期待を裏切って、10代の SEX 経験率はほとんど減少していません。ただコンドームを使わなくなっただけ(アメリカでの事情は例によって町山智浩「セックスは絶対ダメ! でも、やるなら生で!」『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』を参照)。

 アフリカはカトリック教徒の比率が非常に高い地域です。大陸全体で 13 億人を超える。だから、神の代理人である法王の発言は、極めて広範囲な人々に絶対的な影響力を持ちます。そしてアフリカのエイズ感染率が異常な高さであることも、周知の事実です。50% を超える壊滅的な国まである。今後きっと、法王の言葉に動かされてコンドームを使わない人々が続出するでしょう。それによって、エイズはさらに感染を拡大する。アフリカは文字通り壊滅するかもしれない。

 これが、本当に人間を救うと公言する宗教人のやることなのか。どんな教義を信じるのも個人の自由だけど、他人の生きる権利を奪う教義に、私は救われたいとは思わない。今回の一件には、教会の一部からも批判の声が出ているそうですが、同じカトリック教徒の人々がどのように考えているか、是非聞いてみたい。