平等な社会を作るための地図

 『ザ・ホワイトハウス』エピソード38(2nd シーズン)は、「Somebody's Going to Emergency, Somebody's Going to Jail」(邦題「父への思い」)。ホワイトハウス職員が様々な利権団体の意見に広く耳を傾ける「大きなチーズの日」が今年もやってきます。昨年のこのイベントでは CJ がイカれた自然愛護団体に振り回され、サムはもっとイカれた UFO 研究団体の相手でうんざりしていましたが、今年も輪をかけて強烈な連中が乗り込んできます。

 一番面白い(笑えるという意味で)のは、CJ が相手をした「平等社会のための地図協会」。名前聞いただけでは何を目的にした団体かまったく不明ですが、CJ も「地図と平等社会の間に何の関係があるのかしら?」と頭の上に?マークを三つぐらいつけながら会議室に向かいます。なんだか彼女がいつも一番貧乏クジを引かされている気がするけど、他の男性メンバーははなからまともに相手する気が無いので、結局、生真面目な彼女のところにお鉢が回ってくるのでしょう。

 地図と平等社会との関係は、団体の代表たちの説明を聞くとすぐに氷解します。彼らはまず「現在広く使われているメルカトル図法は、面積の表現が不正確だ」と言います。これは本当のことで、メルカトル図法は極に近づくほど面積が実際より大きくなります。しかし問題はここから先の発言で、彼らはこの事実について「これは、北アメリカと西ヨーロッパの面積を実際よりも大きく見せようという、西洋人の帝国主義的発想の具現化だ」という政治的解釈を付け加えるのです。要するに、彼らの批判はポスコロ批評の一種だったのです。ここへきて、平等社会と地図の関係という謎かけの答えがでます。

 このあたりから CJ の眉間に皺が寄り始めますが、見てる方はもう笑いをこらえきれない。協会の代表者は学校では、メルカトル図法にかわって、面積の描写が正確なペータース投影法の地図を採用するよう、政府の協力を求めます。

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 「こ、この地図、ちょっと歪な気がするんだけど」と困惑する CJ。いやいや、この地図を歪んでいると感じるということは、あなたの感性が知らない間にそれだけ深く西洋至上主義に毒されていた証拠なのです。こちらこそが正しい世界の表現なのですよ、と諭す協会の代表。うむ、お説ごもっとも。

 「しかし、地図における不平等の問題は面積の問題だけではないのです。」

 「というと、まだ他にも問題が?」

 「ええ。世界中の全ての地図は、北を上に、南を下に描いています。これは、南北問題に見られるように、北半球の豊かな国々が、南半球の貧しい国々を見下していることを表しています。」

 「でもそんなのしょうがないじゃないの。地図で南が上だったら変でしょ。一体、どんな地図を作ろうっていうの?」

 困惑の度を深める CJ に対して、代表達は会心の笑みを浮かべ、そして満を持して見せるのが、下の地図です。

peters

 いやお見事。「こ、この地図、ちょっと見にくい気がするんだけど」と困惑する CJ。いやいや、この地図を見にくいと感じるということは、あなたの感性が(以下略)。

 実際、地図の上が北というのは、恣意的な決め事に過ぎません。日本車がたまたま右ハンドルなのと同じです。だから、外車には左ハンドルのものもある。地図だって、南が上のものがあったって、実用上困ることはない・・・・・・多分。

 ちなみに、私も一度だけ南を上にした地図を見たことがあります。それはマンションの広告で、日当たりの悪い部屋を一見すると日当たり良好に見せかけるための底の浅いトリックでした。こういう地図は、たとえ南が上であっても、平等社会建設という崇高な理念に反するため、認めるわけにはいきません。