科学としての心理学

 チャルディーニの名著『影響力の武器』の続編『影響力の武器 実践編』が届いたので、早速読み始めています。前作からずいぶん待たされたけど、その分期待を裏切らない。楽しー。

 タイトルだけ見ると怪しげなビジネス書のような印象を受けますが、そんなのとはモノが違う。「本書で紹介される戦略には必ず、それを裏付ける科学的な証拠がある」と著者たちが胸を張るとおり、本書は何よりも科学書です。その証拠に、本書では、個々の人間の内面の葛藤や迷いのような心理的プロセスはあまり重要ではありません。そういうのも書かれているけど、それはあくまで説明を分かりやすくするための「お伽噺」です。

 著者たちの武器は実験と統計です。だから本書では、人間という関数にある入力を与えると出力がどのようになるか、という行動主義的なスタンスに貫かれている。これはとっても骨の折れることです。だって何を言うにも実験をやって、その結果を集計しないといけないから。通俗心理学書のように、あるかどうかも分からない人間の「内面」とやらについてお喋りする方がずっと楽だけど、敢えてそれを自制し、人間の心を、中でどういう動作をしているか不明のブラックボックスとして扱う。それは一つには、著者たちが科学者としてのプライドを持っているからであり、もう一つは、人間の心がどう動いているか、結局のところ厳密に把握することはできない、という正しい諦念を持っているからです。再現性もなく厳密性もない心という機構は、確率的現象としてしか記述できないのです。

 フロイトユングみたいな疑似科学だけが心理学と思っている人は、まず手にとってほしい。もちろん前著も理論編としてお勧めです。