『Economist』:LDPの終焉と日本の夜明け

 今度の衆議院選挙で民主党が地すべり的な大勝を収めるだろう、という予測は、投票1ヶ月前だというのに、もうほぼ固いものとなっています。この見解は外国のメディアの多くも共有していて、関心は既に、長かった自民党政権の総括と次の政治体制をどう構築すべきかという問題へ移っています。

 事実上の一党独裁体制だった自民党支配が崩れることには反対しないけれど、しかし、民主党政権が本当に頼りになるかどうか、疑念と不安を禁じえない。おそらく、最大公約数的な日本人の心情はこんなところでしょう。それでも、『Economist』は、自民党が終焉を迎えるのは、やはり日本にとって最良の選択なのだと考えている。

 麻生首相は、確かに多くの間違いを犯したかもしれないけど、しかし彼はただ、自民党の救いがたい凋落を象徴しているだけの存在に過ぎません。彼はこの4年間で4人目の総理大臣で、今の自民党の惨状の全てを彼の責任に帰すわけにはいかない。自民党そのものが、理念も結束もなく、退廃におおわれている。権力が相続財産のように世襲され、政策よりも策謀の方が重要になっている有様は、周知のとおりです。

 このような退廃を出現させてしまったことには、もちろん日本の有権者にも責任があります。しかし彼らも、さすがにもうお腹いっぱいでしょう。世論調査の結果を信じるなら、今度の選挙で自民党は地すべり的な大敗を喫し、民主党に政権がわたることになるでしょう。経済は復旧の兆しを見せてはいるけど、自民党が生き残る余地はない。内部から腐敗した政党に、救われる価値はないのだから。

 しかし、多くの有権者がまた、本当の変化が訪れることには懐疑的でいます。これはちょっと(外国人には)理解しにくい心情ですが、50 年以上続いた自民党の追悼文が書かれたことは何度でもあったことを考えると、その気持ちも理解できるものです。日本人は、死体が何度でも蘇るのを見てきた。1993年には、細川護煕を首班とする連立政権が成立し、自民党は実質的に権力を失いましたが、11ヶ月後にはあっというまに返り咲きました。2005年にも、自民党は深刻なトラブルを抱えていたにもかかわらず、当時の小泉純一郎首相が、自分に投票することは自民党の過去の悪弊と決別することを意味するのだと国民を説得することに成功し、大勝利を収めました。今の政府の業績がお粗末であることは 2005 年のときに勝るとも劣りませんが、今度は国民も同じトリックにひっかかることはないでしょう。それに、今度は小泉氏のような才幹ある政治家が自民党にいない。

 日本人が変化の到来に懐疑的になってしまう理由は、もう一つあります。民主党は、10年前に比べればずっと確かな野党になってはいるけど、しかしその内訳は、社会主義者と元自民党員という、およそ考えられないような不思議な野合で、統一性や一貫した綱領を欠いている。同党は、よく論争の的になる官僚制に戦いを挑んでいますが、官僚のエネルギーを新しい政策へ向けさせるよううまく制御することの必要性は認識していない。また、国の負債を増やす麻生首相の財政刺激策を厳しく批判はするものの、彼ら自身の政策ときたら、自民党以上に負債を増やしかねないバラマキで、同じ穴のムジナです。

 それでも、日本は民主党を必要としている。上記のような欠点があったとしても、なお、です。民主党は説得的なヴィジョンを示すことはできないとしても、少なくとも二つのものを日本にもたらすことができる ―― もうずっと日本が待ち焦がれていたものを。

 一つは、政府の新しい枠組みです。自民党一党独裁が長かったせいで、政府は政策や規制を実現するために、政府だけでなく党の了解をもえなくてはならなくなっていました。そのため、せっかく作った法案が党の有力者の利害に反するために潰されることも少なくなかった。小泉氏以降の総理は内閣の権限を強化しようと改革を試みてきましたが、多くは失敗した。自民党より厳しい党則を持つ民主党であれば、よい政策を法案化まで実現するメカニズムを作れるかもしれない。

 もう一つは、政権運営能力を備えた複数の政党です。これは、日本が戦後一度も持ったことがないものです。民主党が勝つことで、各政党には魅力的な法案を作ろうとするインセンティブが生まれる(そうしたら有権者が選挙で選んでくれると期待できるから)。このようにすることで、日本はいくらかはまともな政府(decent government)を手に入れられるのではないか。

 もし民主党が勝ったとしても、政権の座にいる期間は長くないでしょう。そして自民党の改革派が集団で離党すると、日本の政治は困難な時期を迎えることになる。特に、日米同盟を含む外交方針をめぐって、不安が国中に広がることになる。なにしろ鳩山代表は中国や北朝鮮東アジア共同体を作るという非現実的な友愛外交を掲げているし(マニフェスト(p.8)でもはっきり謳っている)、小沢氏も駐日米軍の規模を減らしたいと言っている(その先に見据えているのは核武装含む日本の戦争権の再確立です)。民主党が政権をとった場合、日本の安全保障が揺らぐリスクはかなり大きい。そうすると、さすがのぬるま湯日本人も、真剣にならざるをえない局面まで引きずり込まれる。その一撃は、国民の目を覚ます効果を持つでしょう。

 今度の選挙は、そうした刷新へ向かう第一歩になります。その結果、日本の有権者たちは自らの政体の欠点と直面することになるだろうけど、それも決して悪いことではない。自民党だけでなく、有権者もまた、たまりきったツケを払わなければならない時は、必ず来るのだから。