『Economist』:テレビの見すぎ

 価値観が多様化し、インターネットに押されつつあるとはいえ、娯楽の王様としてのテレビの優位はまだまだ揺るぎません。OECDの2007年報告によれば、日本人の平均的な一日のテレビ視聴時間は約3.5時間。これから団塊世代以下が続々と定年して超高齢化社会が到来すると、暇つぶしとしてのテレビの重要性は、間違いなく今より高いものになります(老人はインターネットをしない/できない人が多い)。

 しかし上には上がいるもので、テレビ視聴時間ランキングの栄えある1位はアメリカ。なんと一日のうち8時間強をテレビを見てすごすという。

 いくらなんでもその数字は調査ミスだろう! と叫びたくなりますが、私はこの数字が納得できます。だってアメリカのテレビって面白いんですもの。ドラマでは日本はどう逆立ちしても勝てないことは日々痛感するとおりですが、それ以外の番組についても、アメリカには面白いのが豊富にそろっている。チャンネルの数も山ほどあるので、自分の好みにあったものが見つかりやすい。町山智活の『新版 アメリカ横断TVガイド』で紹介されているカラフルで前衛的とさえ言える数々の番組を知ると、これを見るためだけでもアメリカに住む価値はあるのではないかと思うほどです。いやホント凄いんだから。裁判の実況中継番組とか有色人種だけで結成されたチームが人種差別と戦う戦隊モノとか、私や町山さんでなくともかじりついてみちゃいますよ。彼が興奮とともに描くアメリカテレビ界の活気がうらやましい。

なにしろ100チャンネル以上あるから、テレビっ子にとっては天国。それに、これだけチャンネルがあるともう「とりあえず何でもやっちまえ」状態で、解説者自ら映画を罵倒しまくるテレビ映画劇場とか、法廷中継専門チャンネルとか、黒人専門チャンネルとか、田舎者専門チャンネルとか、レズビアンが主役のラブコメとか、LSDのオカズになる乳児番組とか、狂信的キリスト教パンク・ロックとか、億万長者の嫁入りレースとか、男女十人九十日間監禁生中継とか、大統領の不倫釈明とか、もうムチャクチャ。でも、そこには観光や映画では決して見ることのできないアメリカ人の真の姿がある。テレビは大衆の欲望を映す鏡だから。
(『アメリカ横断TVガイド』)

 日本のテレビは最近、斜陽産業といわれて元気がなく、確かに番組表を見ても昭和を振り返るような「昔はよかった」回顧番組がやたら多いのには辟易します。私もテレビを見るのは結構好きなほうなので、日本のテレビがつまらないことには寂しい思いをしています。アメリカの活力あふれる(いささか溢れすぎる)番組作りを見習ってもらいたい。

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