命令・禁止・尋問

 『24』の1stシーズンを見終わりました。確かに筋書きがよくできていて素晴らしい。脚本家がチームで仕事をすることの効用は、終盤まで一貫して高いクオリティを維持できることですね。

 見ているなかで、このドラマが放映された 2003 年当時のアメリカがどれぐらい切羽詰っていたか、改めて確認させられました。主人公ジャックはその台詞の9割が命令・禁止・尋問で構成されるという「24時間非常事態宣言」な男ですが、こういう人物に感情移入せざるをえないぐらい、アメリカ国民の神経は尖っていた時期だった。もちろん、同年の3月には、まさにイラク戦争の戦端が開かれているのだから、苛立ちや不安が国を覆っていないほうがおかしいのですが、でも親愛なるアメリカの善男善女には悪いけど、私にはジャック(アメリカ)の正義感が息苦しくてぜんぜん共感できなかった。むしろテロリストのドレーゼン一味に「復讐するは我にあり」という大義を感じてしまった。

 ジャック、ドレーゼン、パーマーの全員、暴力の連鎖構造に絡め取られていて、何とかそれを断ち切ろうともがいているのは同じです。でも悲しいことに、彼らはそのための手段として「相手を殲滅する徹底的な暴力」以外を持ち合わせていない。この時のアメリカに一人のガンジーキング牧師もいなかったことで、このドラマは生まれた。

 それにしても今から振り返ると、2003年の時点で既に黒人大統領の誕生を予見していたのはずいぶん先見の明がありましたね。パーマーもオバマと同じ民主党だし。この時期はブッシュの人気絶頂で共和党がイケイケだったと記憶していますが、敢えて「真実から目をそらさない勇気を持つ黒人大統領(候補)」というキャラクターを世に問うたところに、作り手の気概を見た。政党の違いはドラマの骨子には関係しないとはいえ、共和党べったりの FOX がよくこの内容で放映したね。大統領を共和党の白人に変えろという圧力はなかったのかな。

 追記:ジャックの余裕のないキャラはコメディアンにとっては絶好のからかいの的です。どきどきキャンプ教習所は面白い。でも一番面白いのは『青木ドナウ』で披露していた「ビデオ屋でAVを借りるジャック・バウアー」だった。あれどこかのサイトに転がってないかな・・・。

 「なんだこの丸い二つの物体は!」