情緒の呪い

 かんぽの宿などの問題で揺れていた日本郵政の西川社長がついに辞任してしまいました。代わりの後任は「社会主義者」亀井大臣肝いりの元大蔵官僚に決まって、もうため息しか出ない。本当に残念です。さすがに全面国有化まで後退するとは思いたくないけど、日本郵政が赤字垂れ流しでも平気な天下り機関に作り変えられてしまう危険は高い。

 日本郵政の一連の問題は、「アルカイダ」鳩山元大臣が憶測に基づく批判をしたことから一般に知られるようになりましたが、そもそも大臣が民間企業のやることに口を出すこと自体、筋違いです。もし鳩山氏が日本郵政や西川元社長が不正をしている証拠を握っていたなら、警察に教えればいい。それが法治国家における不正追求の方法です。もちろん、そんなものを持っていなかったので、ああいう妙なプロパガンダに打って出た。だから鳩山大臣が更迭されたのは当然の措置です。しかも騒いだ挙句、いまだに違法性を裏付ける証拠は出てきていない。

 しかし、世間的には日本郵政が悪者で、鳩山氏や亀井氏が正義であるような空気ができあがってしまった。日本郵政もロジカルな反論をしてかなり粘ったけど、後ろ盾の自民党も失い、ついに折れてしまった。

 このように確たる証拠もなしに政治家(しかも大臣)が「疑獄事件だ」と世論を誘導して、日本郵政が悪者であるような「空気」を作り上げていく過程は、日本社会が昔から持っている悪い意味での意思決定プロセスを見せつけられたようで、気分が悪くなりました。山本七平などが批判した、太平洋戦争へ向かっていくときの悪い流れの作られ方も、きっとこういう感じだったのでしょう。日本では集団における決断が下されるとき、常に論理が敗北し、情緒が勝利する。これはほとんど日本の宿痾と言っていい。

 山本は「日本人は敗れ去る。これまでも、そして今後も」と暗い予言を残しました。現在のところ、その予言は当たっている。亀井氏の凱歌は、日本の弔歌になるでしょう。