『Economist』:雲の上の闘い

 クラウド・コンピューティングは、既に多くのユーザーに恩恵をもたらしています。メールなどのサービスをクラウド化して情報をセンターサーバーに置くことで、世界中どこの端末からアクセスしても同じサービスを利用することができる。企業にとってもクラウドの効用は大きく、これまでサーバーなど固定費として計上していたコストを、変動費に移すことが可能になるので、財務状況の変化に応じた設備の調整が簡単にできます。

 これはちょうど雇用問題における正規労働者(正社員)と非正規労働者派遣社員)の関係に似ています。昔の企業は人を雇おうと思ったら正社員として雇わなければならなかった。パートやアルバイトはいたけど、あくまで補助的な役割だった。正社員の欠点は不況のときにすぐにクビを切れないことですが、これは不況になったからといってサーバーをほいほいと捨てられないのと同じです。でも、派遣社員ならスパスパ切ることができます。クラウドコンピュータの世界に非正規労働の仕組みを持ち込んだものです。Geek だけでなく企業の経営者が熱い視線を送るのも無理はない。

 でも、そんな便利なクラウドにも、リスクはつきものです。『Economist』は三つ上げています。

  • ロックイン。これはコンピュータ・サービスには昔からあった問題で、クラウドもまた例外ではない。互換性のない形式でデータを保存されると、別の企業のサービスに移行するのが難しくなる。ユーザはなるべくロックインされにくい標準的なフォーマットのサービスを選ぶ必要がある。
  • プライバシークラウド・サービスを利用するには、一般的にはお金を払うか、またはその代わりに個人情報を提供する必要があります。個人情報は、サービス提供企業が広告を打つのに使います。テレビとかと同じで広告料で収益をあげる代わりに、ユーザには(一見)無料でサービスを提供するわけです。Google個人情報に執着する企業で、プライバシーを目の敵にしていることはよく知られています。
  • データがふっとぶ。正直これはサービスの成熟とともに解決されるだろう、というのが私ならずともシステム屋の見解だと思いますが、まだクラウドというサービスは発展途上なので、時々むかしの原発みたいなとんでもない事故をやらかします。最近もマイクロソフトのその名も「Dnager」という携帯電話サービスにおいて、ユーザデータが飛んでしまうという惨事が起きました。

 
 クラウドの信頼性と透過性の向上が遅れると、サービスの提供者とユーザの双方が最も望まない事態 ―― 当局による介入と規制 ―― が生じることになります。しかしいまブレーキをかけるには、クラウドは既に大きくなりすぎた。一日も早いサービスの成熟が望まれます。まあ、言われなくてもやる連中ばかりだけど。