インターネットは一度破壊してから再生させる

 Amazonキンドルを媒体とする電子書籍の印税を、従来の 35 % から 70% に引き上げるという衝撃的な一手を打ってきました。これは著作者にとっては非常にメリットの大きな提案です。

 日本では、大体印税は職業的な作家で一律 10% 、私みたいなぺーぺーのライターだと一桁です。これではミリオンセラーを売らないと生計が立ちません。でもそんなことができる作家はごく少数なので、多くの作家は1万冊売れる本を100冊書くという戦法に出て、結果として粗製濫造に堕すことがままあります。

 でも、印税 70% ならそんな必要もなくなる。1冊1000円で売るとすれば、印税は700円。1万冊売れば 700万です。これなら、一部の人気作家以外でも多くの著作者が筆一本で食べていけます。この高い印税を、Amazon は製本や流通といった中間業者のマージンをすっとばすことで実現しているので、既存の出版社や書店は打撃を受けるでしょう。ちょうどインターネットによる音楽の流通がレコード会社を衰退させたように、今度は出版社が衰退することになる。もっとも、「編集」という作業は出版物を作る過程ではやっぱり重要な機能なので、出版社や編集者が完全に消えてなくなることはないでしょうが、リンク先で津田氏が言うように、著作者との力関係に変化が生じるでしょう。

 でも、別にこれは恐れるほどの変化ではありません。音楽産業において見られたように、インターネットは最初は既存のビジネスモデルを破壊するのですが、長期的にはその産業自体を活性化し、むしろパイを拡大する効果を発揮しました。今では多くのミュージシャンがネットを通じた作品の配布に積極的だし、私たちリスナーも非常に安価に多様な音楽を楽しむことができるようになった。出版においても、やはりそういう流れを辿ることになるでしょう。もちろん、その過程で既得権を失う人々は多数出るので、しばらくはそういう人たちが「インターネットは文化を破壊する」とか「アメリカの横暴を許すな」とか、ブーブー文句を言うでしょうけど、まともに取り合う必要はありません。

 ところで一度書籍として出版した本を、再度、電子書籍で出版するのってダメなんですかね。私もぜひ一発・・・あ、やっぱりダメ?