物事には優先順位がある。人間にもそれはある。
危機への対応というのはいつでも誰にとっても難しいものです。それが難しい理由は、滅多に起こらないから誰も正しい対処法を知らないとか、そもそも技術的に対応困難な状況に追い込まれるとか、挙げていけばキリがないのですが、中でも大きいのが、リソース(資源)が絶対的に不足してしまうことです。ここで言うリソースとは、食料や医薬品といった物資に限らず、電力・水道・ガス、それに通信帯域といったインフラや、人手や時間のようなソフトパワーも含みます。危機的状況では、こういう資源が、もう全然足りなくなる。
だから、危機管理において一番重要なことは、タスクの優先順位(priority)をつけることです。現時点でするべきことをリストアップすれば、主要なものだけで軽く 500 を超えるでしょう。でもその全部に十分なリソースを割くことは現実的に不可能です。だから順位をつけて、重要なものから片付けていくしかない。災害医療におけるトリアージと同じ考え方です。そりゃあ、出来るなら全部の問題に対応した方がいいに決まってます。でも頑張ればそれが出来る状況は、定義として「危機」とは呼ばれないのです。
主なタスクをリストアップしてみると、細かい順序に違いは出るかもしれませんが、大筋、次のようになるでしょう。
1位〜100位:喫緊のタスク
1 位と 2 位を除けば、10 位以内はいずれも同程度に重要なタスクのため、最大限パラレルで行う必要があります。このほか、外国からの支援チームの受け入れ、感染症予防、通信網の復旧など直接人命に関わるタスクも上位に入ります。ここ数週間が勝負のタスクばかりです。
1. 福島第一原発の安全確保
2. 人命救助
3. 怪我人・病人に対する治療
4. 医薬品の供給
5. 食料・水の供給
6. 被災者の避難所の確保
7. 水道の復旧
8. 電気の復旧
9. ガスの復旧
10. 交通網の復旧
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ただ、実際のところ、被災地以外に住んでいる人にこの段階で出来ることはほとんどありません。ボランティアや物資の送付はむしろ邪魔なのでやってはいけません。募金をしたら、なるべく節電しながら日常生活を送ることが最も有益です。
101位〜400位:復興支援へ向けたタスク
震災による直接的な被害の食い止めに目途がたったならば、復興支援の財源確保(既に自民党が増税案を提示している)やなど中期的なタスクを開始することになります。福島第一原発は放棄する可能性が濃厚なので、それによる電力損失の補填をどうするかも、頭の痛い課題になるでしょう。数ヶ月から 1 年のスパンで行うタスクになります。
401位〜500位:被災地の長期的安定化のためのタスク
職を失った人々、家族を失った人々の生活支援や、被曝患者をはじめとして、今回の震災で心身に健康被害を負った人たちへの長期的なケアの体制を整える、産業復興など、被災者が通常の生活を取り戻していくために必要なタスクが含まれます。1 年〜数年の間は取り組む必要があるタスクです。こうしてみると、ディザスタ・リカバリというのは長期戦だということが分かります。
また、いわゆる「反省会」もここに入れるべきタスクでしょう。今回の政府、メディア、現場チームの対応を検証し、どこが上手くいき、どこがまずかったのかを洗い出すのです。また、そもそも事前の備えはどうだったのかも検証が必要です。日本は今後も原発に頼っていくのか、といった「この次」(残念だが、必ずまた来る。日本はそういう運命の国です)を見越した検討が必要になります。
「政府の情報開示が不十分だ」といった批判も、やるのは落ち着いてからにすべきです。今やっても現場の作業効率を落とすだけでいいことはない。
圏外
番外編。これをやっても一切役に立たない行為。被災者が救われることもないし、インフラの復旧が早まることもない。むしろ余計なエネルギーを使うだけマイナスかもしれないもの。例えば:
- 現場の失態批判。フジテレビの記者が原発の会見中に「笑えてきた」と発言したのをあげつらったり、徹夜の副大臣がヘリで寝ていたのを咎めるとか。感情的に許せない気持ちになるかもしれないけど、怒っても無益です。
- 責任者探し。蓮舫大臣に事業仕分けで災害対策費用を削減したことの責任を追及していたのなんか典型。内田樹氏は「危機に際して最も役に立たない発言は『この失敗はお前の責任だ』である。この言葉は一切事態の好転に寄与しない」と言っていますが、まさにその非生産的な行為を地でいく人間がいて、私も驚いた。繰り返しですが、「この行為は被災者にとって有益だろうか」という観点から評価したら、どの行為が有益でどの行為がダメかはすぐに分かります。
もちろん、こうしたランキング外の行為以外にも、人としてやってはいけない行為も、当然あります。混乱に乗じてデマや憶測や不確かな情報を流すとか、火事場泥棒とかもってのほかです。こういう人としてランキング外の行為が論外であることは、言うまでもありません。