『アエラ』「放射能がくる」の内容は表紙ほど酷くない

 防毒マスクに赤い大文字で「放射能がくる」という扇情的な表紙で帝都の話題をさらった今週号の『アエラ』は、炎上マーケティングの甲斐あってかなり売れているようです。コンビニなどでも売り切れでほとんど見かけない(トータルでこの手法が成功するかは、1年ぐらい絶たないと分からないけど)。

 私は幸運にも(?)昨日行ったジムに置いてあったので一通り読むことができました。感想としては、中身は表紙に比べれば全然大人しくて、中身も事実誤認や人を煽る憶測でいっぱいというわけではありませんでした。数値的な事実よりも物語性を重視した記事構成ではあるものの、それはいつもの『アエラ』の誌面の特徴。むしろ東電の隠蔽体質や情報開示の不十分さを衝くなど、 TV などのマスメディアが踏み込みたがらないポイントも勇気をもって書いていた。

 ただ、巻頭の「東京に放射能がくる」という編集部の岡本進、伊藤隆太郎両氏の署名入り記事では、ミスリードが目立ちました。「『最悪』の事態なら『チェルノブイリ』に」というサブタイトルから始まって、読者の不安につけこもうとする意図があるように見えた。特に私が気になったのが次の二点

  • 「急性死者540人想定」という小見出し。ページを開いてパッと眼に飛び込んでくると、結構ショッキングな数字です。「そんなに死者が出るのか」と思うでしょう。でもこれ実は、今回の事故の推計値ではありません。東海一号炉という別の原子炉で事故が起きた場合の予測値です。しかも 40 年以上前の報告書の。こんな数字引っ張り出されても、今回の事故と単純比較できないのは明らかで、全く意味をなさないデータです。とりあえず大きい死者数が欲しかったのだと取られても仕方ない。
  • 原発付近の放射線量が高いことを言おうとして、「『ミリシーベルト』は福島原発の正門付近で観測されている値だ」 と具体的な単位を出しているけど、mSv と mSv/h の区別がついていません。原爆時の被曝線量を 「10〜1000mSv」 といって、あたかも今回もそれに近い被曝量があるかのように書いているのですが、被曝の強さ(速度)を表す mSv/h と蓄積量(距離)を表す mSv を直接比較はできません。 1000mSv/h の場所にいても即座に 1000mSv 蓄積するわけではないのだから。

 この巻頭記事はいたずらに人心を煽っていると受け取られても文句は言えない、というのが私の評価です。被曝で怖いのはプルトニウムなんかよりヨウ素による体内被曝である、など正しい知識も伝えているだけに残念なところです。ただ、こういう記事にもきちんと文責を実名で表示しているのは、地味だけど立派です。それに、他の記事には東電への追及や個人でやれる放射能対策など、良いものもあります。炎上マーケティングなんて似合わぬことをやろうとして、功を焦ってしまったのかな、というのが全体を読んで受けた印象でした。果たして炎上しただけのもとは取れただろうか。