誰にだって忘れたい過去の一つや二つはあるものだ

 4/1 付けの New York Times に掲載された面白い記事。

 インターネットには色んな機能がありますが、その中でも特筆すべき一つが、巨大な分散データベースとしての機能です。インターネットはほとんど無尽蔵の貯蔵庫で、しかも一度記録されたら半永久的に残り続けます。「インターネットは忘れない(The Internet never forgets)」という格言もある。

 これは基本的には良いことのように思えますが、厄介な側面も持っています。記録が半永久的に残って嬉しいのは、それが正しい記録に限ります。でも実際には、インターネットにはデマやウソといったネガティブな情報も有用な情報と同じぐらい溢れている。また、ウソではなくても、人には触れられてほしくない過去(離婚とか仕事上の失敗とか犯罪とか)もある。インターネットは、こういうネガティブな情報も半永久的に保存します。佐々木俊尚氏は、このインターネットの性質を無間地獄と評した。

最近、5年間連れ添った妻と離婚したニューヨークの教師に話を聞いてみた。彼の名前をググってみると、ヴァカンスやクリスマス・パーティのときの彼の元妻の写真が出てくる。「新しい相手とデートしようとしているときに、前妻がまだ写真の中にいるというのは、複雑な気持ちだ」とこの教師は言う。

 これはまだ「そう気落ちするな」と肩を叩いてやるレベルの話ですが、もう少し深刻な話もある。

ブリヤンは、ニューヨークの広告代理店の役員だ。彼は優れたオンライン・マーケティングの専門家で、ニューヨーク大学の教授でもある。だが彼の名前を検索して最初に出てくる結果は、法律事務所からのプレス・リリースだ。8年前、彼は 9・11 の補助金を不適切に受け取ったことで訴追されていた。「それから8年間ずっと」そのリンク先は残っている。彼が払った罰金は 2,000 ドルだった。

 実際悪いことやったんだから、その記録が残ることに文句言うなよ、という人もいるかもしれない。2ch ならばこういうネタを喜んで晒す人間は山ほどいます。でも、これまでの人生で一度も失敗や魔がさしたことのない人がどれくらいいるでしょう? 日本でもかつて、Winny 経由で性的な写真や動画が流出した事件がありました。ウィルスに引っかかったのは本人が軽率だとしても、それを永遠に許されざる罪として扱う必要があるとは思えない。インターネットは、私たちに常に無謬で公明正大であることを求めるが、その要求に完璧に応えられる人間はいません。

 こうした完璧ならざる人々にとって福音となるのが、「評判管理サービス(reputation manager)」です。個人や組織のネガティブな情報を載せるサイトに削除依頼を出す地道な作業から、Google の結果ランキングを下げたりといった「逆 SEO 対策」までやる。昔からサービス自体は存在していたのですが、最近になって急成長を遂げているそうです。

ある評判管理サービス企業によれば、このサービスの顧客は二種類に分かれるという。「事後的」クライアントは特定の項目を Web から削除したいタイプ。「予防的」クライアントはイメージを監視したいタイプ。今のところ、顧客の割合は半々だという。

 人々がより多くの人生をオンライン上で送るようになればなるほど、オンライン上での評判は重要性を増していきます。不況にあえぐアメリカにおいても順調に成長を遂げている分野のようなので、いずれ日本にも導入される日は遠くなさそうです。