また勝ってしまったか:『Economist』「エイズの終焉?」

 今週の『Economist』誌の巻頭記事は、エイズについて。この史上最大の敵に対して、人類は遠からず勝利を収めるであろうという、明るい見通しを伝えています。

 1981 年 6 月 5 日、米ロサンゼルスの医師たちは、ごく稀にしか見られないタイプの肺炎が大流行していることに気づきました。それから数週間後、今度は科学者たちが、やはり非常に珍しいタイプの癌がサンフランシスコで多く観察されることを報告しました。これがエイズとの長い戦いの始まりでした。それから 30 年。エイズによって 2500 万人が死に、3400 万人が感染しました。しかし、戦いはまだ決着していないものの、その戦況は誰も予想していなかったほど良いものです。10 年前には、南アフリカ諸国では、人口の半分がエイズで死ぬと予想されていました。しかし、ここ数年、エイズによる死亡率は低下傾向にあります。

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 しかも、最近の研究によって、エイズの感染を薬で防止できることが分かってきました。この薬が実用化されれば、エイズはせいぜい狂犬病程度の病気に地位を落とすことになる(狂犬病は発病したら今でもほぼ助かりませんが、ワクチンで予防可能です)。記事は「既に世界にとって問題は、この病気を駆逐できるかということではなく、駆逐するための費用を捻出できるかである」とまで言い切っている。

 しかし、その費用の問題も、決して軽視できるものではありません。この世には、論理的には解決可能であっても、コストによって解決できない問題の方が多いのです。現在でも、先進国以外でエイズ撲滅に費やされている費用は、年間 16 億ドルにのぼります。今後、この費用はさらに増えることが予想されているうえ、折悪しく今は EU もアメリカも、財政難によるコストカットに躍起になっている時期です。オランダとスペインはエイズ対策の拠出金を減額しているし、イタリアにいたっては廃止しました。まだまだ前途は多難です。でも、人類はきっとまた勝利するに違いない。

 ところで、こうした世界の動向に対して、日本はどうなのだろう、というところも気になります。実は、日本はエイズ対策については、あまり誉められた成績を残していません。厚生労働省エイズ動向委員会は、3 ヶ月ごとにエイズ患者の発生動向をモニタリングしていて、その結果を Web で公表しています(PDF)。リンク先の経年グラフを見ると分かるように、エイズ患者数はほぼ単調増加で増えており、世界の潮流に一人立ち向かっています。2010 年の日本国籍例は 436 件で、うち男性が 421 件。感染経路は 7 割が性的接触によるものです。

 性病予防のためにコンドームをつけるというのは、EU ではテーブルマナーと同じぐらい常識になっていますが(アメリカはお馬鹿なキリスト教原理主義のせいでこの限りでない)、日本ではいまだにこの習慣が定着していない。EU 諸国は、売春時にコンドームを付けさせるために、売春を合法化したほどです。Wikileaks創始者ジュリアン・アサンジがレイプ容疑でロンドン警視庁に逮捕されたとき、その理由が「売春婦とセックスするときにコンドームを付けなかった」であることは、記憶に新しいでしょう。コンドームをつけない買春は、相手に対する暴力と見なされる ―― これが先進国の常識です。日本もスウェーデンを見習って、売春の合法化とコンドーム着用を義務づけるよう、売春防止法を改正するべきです。