階級社会アメリカ

 New York Times の記事より。("Harder for Americans to Rise From Lower Rungs"

 日本はいま、階層が二極化しているだけでなく、階層が固定化される社会に向かっていると言われています。親が貧乏だと、子供も満足に教育を受けられず貧乏なまま人生を終える。親が金持ちだと良い教育を受けられて、子供はもっとお金持ちになる。この「貧困の再生産」と呼ばれる問題は、格差問題における重要な論点の一つで、新春の NHK の討論番組「ニッポンのジレンマ」でも関心を集めていました(この番組は 1/7 再放送なので、見逃した人は録画の用意を)。

 この話をするとき、必ず参照点として持ち出される国が、アメリカです。アメリカン・ドリームという言葉に象徴されるように、アメリカというのは経済的な流動性の高い社会だ、というのがこれまでの通説でした。しかし記事では、複数の研究結果をもとに、その通説は最近のアメリカ社会には当てはまらなくなってきている、と伝えています。最近では、アメリカの経済的流動は、他の先進諸国と同程度か、それより悪い場合もあるという。

流動性が落ち込んだ理由の一つは、アメリカの深刻な貧困である。貧しい子供たちは人生の開始時から取り残される。もう一つの理由は、アメリカの企業が大学の学位を非常に重視することだ。普通、子供は親の学歴をなぞるので、この学歴偏重によって、家庭的バックグラウンドが重要になり、学歴のない人々の経済的上昇を妨げている。

 日本では、大学中退者のジョブズゲイツが活躍する「実力本位の国」というイメージの強いアメリカですが、記事が言うように、大勢としては日本以上に強烈な学歴社会であるというのは、よく知られた事実です。

 昨年アメリカから全世界に飛び火した「99%」によるウォールストリート占拠運動も、こうした階級固定化の流れと無関係ではないのでしょう。従来、格差を容認する保守派の言い分は、その格差は「フェア」なのだから倫理的にも許容される、というものでした。「誰にも成功のチャンスは平等に与えられるのだから、結果の格差は容認せよ」というロジックです。しかし、研究が示すように、成功するかどうかが生まれによって決まってしまうのだとしたら、機会平等という言葉は金持ちが貧乏人を貧乏な状態にロックインしておくための好都合な嘘でしかなくなる。

誰でも梯子を昇ることができる。嘘である。アメリカは平等でなければ流動的でもない。

 家庭的バックグラウンドという点で見ると、アメリカの貧困家庭にはシングルマザーが多いことも知られています(もちろん学歴もない)。子供たちが貧困から抜け出すには、こうした家庭の経済的支援および早期教育が重要であることは、ペリー就学計画の実証研究からも明らかになっています。

 アメリカがアメリカン・ドリームを回復できるかどうかは、保守派の嫌いな貧困層への再配分にかかっているということを、保守派は理解できるだろうか。