ありのまま願望を超えて:NHK Eテレ「ねほりんはほりん」

NHKEテレでやっている「ねほりんはほりん」という番組がNHKらしくなくはっちゃけていて面白いという噂を聞いたので、さっそく見てみました。

面白い。

確かにこれは面白い。

南海キャンディーズの山里さんとYOUさんが司会となって、普通あまり社会の表舞台には出てこないワケありなゲストの人生について根堀葉堀きいていくという、これだけ聞くと民法バラエティでやった方がいいのでは?という下世話な企画。しかしそこはさすが旧3チャンネルの血をひく教育テレビ。ちゃんと啓蒙的な内容になっていて素晴らしい。

7/1回のゲストは「プロ彼女」。この言葉、私も番組で初めて知ったのですが、能町みね子さんという人がロンドンブーツ淳の結婚相手の女性を評して作った言葉だそうです。その定義は以下の通り:

プロ彼女っていうのは一応改めて言うと、基本、芸能人や有名人としか付き合わない一般女性。で、よく芸能人の方が『一般女性と結婚した』って出る時の、だいたいその人がプロ彼女なんですよ。
で、芸能人とかを常に狙っていて。本人は芸能活動は、昔、もう名前が残らない程度にほんのちょっとやっていた程度。まあ、あるいはやっていない。で、検索しても名前が見つからない・・・ブログ見つからない。そういう意味での自己主張はほとんどしていない。にもかかわらず、なぜか芸能人とばかり付き合っている容姿端麗な女性。
「能町みね子 NHK『ねほりんはほりん』プロ彼女特集を絶賛する」

さて、番組では、このプロ彼女(当然匿名)さんが語る「どうやって有名人に辿りつく人脈を作るか」「どうやって相手に気に入られて結婚までもっていくか」「結婚生活を円満に送るためにどんなことに気を付けているか」という、適齢期の女性であれば有名人狙いでなくても知りたい技術について、実に説得力をもって語ってくれています(司会の二人の引き出し方もうまい。特にこの手の話はやはりYOUさんの独壇場)。

芸能活動もしていない一般人が有名人と知り合いになるなんて、普通無理じゃない? という山里さんのもっともな疑問に対して、プロ彼女さんは、「直接狙うのではなく、まずは六本木のクラブのVIP席にいる『女の子』と仲良くなる」「Twitterなどを使ってタニマチや後援者に近づく」など、実に明快で説得力のある回答を返していきます。これはもはや恋愛という名の仕事。「プロ」の名に恥じない明確な目的意識と確立されたメソッドからは、職人的な美意識すら感じさせます。

他の国の事情は私も知りませんが、日本人は恋愛に関してはかなりのロマン主義者というか、「ありのまま願望」がかなり強い人たちです。アナ雪の歌がはやるずっと昔からそうです。仕事や勉強においては努力して技術を身につけ成果を挙げることは賞賛の対象になりますが、恋愛の分野でそれをやると「あざとい」と言われ忌避されます。「やるにしてもそういう努力は隠れてやれよ」と。最近一部界隈で盛り上がっている「恋愛工学」がたたかれるのも、一部はそのあたりに起因するものでしょう。AV監督にして異色の恋愛指南書を書いた二村ヒトシさんも、(特に女性の)心に潜むありのまま願望の問題について指摘しています。

「愛されたい」ということは「君は、今の君のままで、いいんだよ」と受容されたいということです。
自己受容してなくても、どんなに「より良い自分」になりたがっているとしても、あなたは本当は、今のままで受け入れられることを望んでいるんです。
そのことに気づくと、あなたを愛さない(肯定・受容しない)相手を求めていることが、バカバカしくなりませんか?

本当は「このままの自分」で受容してほしい。

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』 p.73

痛い、痛いよ、監督。

そう、なぜか日本人は、こと恋愛に関しては「努力をするのは邪道だ」という奇妙な規範を内面化している。

そこをさくっと抉るプロ彼女さんの意見だけでもグサッと来た視聴者の心に、司会のYOUさんが追い打ちをかけます。

ありのままの大根が食えるかっての。辛いんだよ。

大根はちゃんと出汁でゆでて、調味料を最適に使うから美味しいんであって、掘ったばかりの泥ついた大根なんか誰が食べるか。

ああ、言っちまった。

そうなのです。女性だってほっとけばワキ毛も生えるし、運動しなければ体型も崩れる。きちんとしたテーブルマナーやエレガントな立ち居振る舞いは、教わって練習しなければ身に付かない。「ありのまま」の人間は男女問わず、獣に近い存在です。「ありのまま」の姿を見せていいのはもうそれだけで十分に鑑賞に堪える美しさと生きていける強さを持ち合わせた神に近い存在だけです。

だから、神ならぬ凡百の我々が相手に気に入られるために努力をすることは何も悪くはない・・・悪くはないはずなのに、なぜかパンドラの箱が開く瞬間を見てしまったような罪悪感が伴うのは、私の中にまだ啓蒙されていない闇が残っているからに違いありません。ねえそうですよね、Eテレのスタッフの皆さん。我々にはもっと啓蒙の光が必要なんですよね。「恋愛のために努力して何が悪いの?」とカラっと言えるプロ彼女さんの境地を目指すべきなんです。「同性で結婚して何が悪いの?」とカラっと言えるようになったように。

「ねほりんはほりん」は、番組のHPを見ても次回告知とかないのでまだパイロット版のようですが、絶対にレギュラー化してほしいと思って応援のエントリを書いた次第です。このエールが番組スタッフまで届け〜。できれば局の偉い人の方まで届け〜。