Web2.0は民主主義の理念を実現するか? (1) Wikipedia

 Wikipediaに代表されるWeb2.0(曖昧な言葉ですが、当面「誰でもコンテンツ制作に参加、または評価できるWebサービス」の意味で使います)は、アメリカ型民主主義の理念をインターネット上で実現しようとする技術です。どんな理念かというと、「多数が支持する事実は真理」という多数決主義。もちろん、意見を発信するために専門の資格はいらないし、教育や研修を受ける必要もない。ネットにつなげれば誰でも参加できます。内容の質はどう保証されるかというと、「編集合戦」という名のディベート。それで勝った方が真理と見なされる、という段取りです。

 「でも民主主義ってそういうものじゃないの? 別にアメリカ型とか断らなくても」

 それはちょっと違うなあ。同じ民主主義と言っても、発祥の地ヨーロッパとアメリカでは、だいぶ内実が異なります。ヨーロッパの方がよくも悪くも権威的・エリート主義的な性格が強く、間違っても専門的知識を要求される判断を万人に任せたりしない。Web2.0の発想は、西欧からは生まれない。そもそも、ヨーロッパはインターネット自体に冷淡です(特にフランス)。

 この違いは、裁判制度にも同じように表れています。西欧では大半の国が裁判員制か、参審制(裁判官と市民の合議制)です。「法律の知識が要求される上に、人の人生を左右する重大事の判断を、大衆だけに任せるなんてできるものか」というのがヨーロッパの考え。一方、「お高くとまりやがって、何様のつもりだ。大衆は誤らない。ゆえにアメリカも誤らない。Yeh!」というのがアメリカの主張。反権威主義、Rockです。

 でも、当たりですけど、大衆は誤ります。専門家よりずっと頻繁に。大衆主義に与する者は、多数決が常に真理を指示するわけではない、という留保をいつも心にとめておかねばなりません。でないと、多数決主義はすぐに「正しいかどうかは関係ない。とにかく数が力だ。数を集めろ」という身も蓋もない票田狩りとプロパガンダ合戦に堕する。

 実際、Wikipediaの提唱者の一人、ラリー・サンガーは「ウィキペディアはもはや信頼に値しないほど、崩壊してしまった」と述べて、専門家だけが執筆できるプロジェクト(Citizendium)を新たに立ち上げました。言うならヨーロッパ型Web2.0です。もっとも、多くのアメリカ人はこれを古い権威主義への退行と見なすでしょう。

 次回は、Googleを例に考えてみます。