2800年前の均衡点

 今度『レッド・クリフ Part 2』を見にいくにあたり、復習もかねて Part 1 を DVD でみました。劇場で見たときも「こりゃ傑作じゃあ」と思いましたが、DVD で気になるシーンをじっくりみても面白い。Part 2 が楽しみです。もうみた人、感想はいかがでしょう?

 今回見ていて思ったのは、三国鼎立の戦略は、その後いろんな政治家や軍人にとって定石となったように、やはりなかなかのものだったのだな、ということです。この「三すくみ」状態が成立すると、それぞれの国力がほぼ互角であるという条件が満たされている限り、どのプレイヤーも他国に戦争を仕掛けることができなくなります(やるともう一国が「すわ」とばかりに背後から襲ってくる)。一種の静止状態が実現します。

 これはゲーム理論でいうナッシュ均衡に近い。ただし、決して互いに満足すべき状況ではないため、三国とも「いつかうちが国力を充実させたとき、他の連中を呑みこんでやる」と画策し、内政と軍備増強に力を入れることになる。そのため、この均衡は長くは続きません。諸葛亮もこれが一時しのぎであることは承知していて、赤壁の戦いの後は蜀の国力充実に力を注ぎます。北伐を焦って失敗したのも、きっとタイムリミットを意識した彼の賢さが裏目に出たのだと思う。諸葛亮の逸話には、木彫りのダミー人形で敵を欺いたり、突風が吹くことを予知したとか、ペテン師みたいな胡散臭いのも一杯あるのですが、そういうのは枝葉のことです。一番重視すべきは、こういう政治家としてのグランドデザインの上手さです。

 ちなみに三すくみ戦略は、諸葛亮の独創ではなく、漢より前の相当古い時代から中国では使われていたそうです。日本が竪穴住居とか掘ってた頃すでに経験から均衡の概念を導いて、それを実際の政治にまで応用していたのだから、昔の中国というのは本当にスーパー先進国だったのです。

 でも考えてみれば、中国は世界史のほとんどの時間を先進国として過ごしてきたのだし、たまたま20世紀の100年間を共産主義という新興宗教にはまって転んでいただけなのだとすれば、その夢から醒めた21世紀の中国は、やはり日本にとっても強大なライバルになるに違いない。