全てを白日の下に曝してやりたい

 Google が数年前から試験的に提供しているサービスにBook Searchという検索サービスがあります。世界中の図書館などにある本を片っ端からスキャナで取り込んで、Web 検索できるようにしようという壮大なプロジェクトです。著作権切れの書籍についてはもうかなりの分量が検索できるようになっています。まだ検索を試してみたことがない人は、是非試してみてください。予想以上の充実振りで、しばらく釘付けになるでしょう。まあ、画面上での読書体験というのはまだまだ本に比べるとしんどくて疲れやすいのですが(特に縦書きの本をスクロールで読むのは違和感がある)、このあたりは今後技術的に解決できることです。縦書きに関しては、そもそも本の側を全部横書きにしてしまえばすむことですし。(縦書きは世界中でみても珍しい)

 Google は、Google Map や Street View でお馴染みのように、全てのデータを Web 上にのせて公開することにほとんど宗教的な熱意をもって取り組んでいます。Book Search もその活動の一環ではあるのですが、このような運動は当然、公開されたくない情報を持っている人々や各種利権団体との軋轢を生みます。Street View のときはプライバシーを気にする人々が主な敵でしたが、Book Search の敵は、自分たちの利権を侵害されるのではないかと恐れた著作権者、出版社、新聞社などです。そのようなわけで、アメリカでは米国作家協会などが集団訴訟を起こしていました。

 そして今年になって、訴訟の和解案が明らかになったのですが、この内容が、これまで対岸の火事と呑気にかまえていた日本の出版業界に衝撃を与えています。というのも、集団訴訟の和解の効力が、アメリカ国内だけにとどまらず、日本含む200カ国の著作者がこの取り決めに拘束され、全文がオンライン公開されてしまう可能性が出てきたからです。この和解案はまだ裁判所の承認を得ていないため、決定事項ではありませんが、かなり現実味を帯びた話になったのは確かです。

 Google は、このサービスで損をする人間はいないのだ、と主張します。著作権切れのテキストに簡単にアクセスできることは利用者にとって大変便利ですし、著作権が存続している著作についても、一部だけプレビューという形で公開して、残りを読みたければ購入に結びつける形にすることで、無料で著作の宣伝ができるのだから、書き手と出版社にとっても有益です(このモデルは既に Amazonプレビュー機能にも取り入れられている実績がある)。図書館にとっては …… あれデメリットしかない。でもまあかまいません。公共サービスは市民のニーズに応えることが最優先事項なので、不要になったサービスは打ち切ればいいのです。図書館の存続自体を自己目的化するのは倒錯している。Book Search が図書館にとってかわった未来では、図書館戦争は起こりえない。どんな書籍を Web に掲載するかは Google の一存で決まることなので、外部の人間が口を挟む権利はないからです。

 今回、アメリカで訴訟を起こしていた作家協会や出版社協会が和解案を呑んだのも、自分たちに利ありという判断を下したからでしょう。その判断は間違っていない。今のところ、Book Search はユーザ、Google、著作者の三方に利益をもたらす優れたビジネスモデルになっています。近江商人のモットーに倣って言えば「三方よし」というやつです。

 さて、日本の出版業界およびそれぞれの著作者は、この手ごわく理論武装されたモデルにどういう反応を見せるでしょう。私の予想では、個人レベルでは前向きにとらえる著作者は出るでしょうが、業界全体としてはまた妙な利権意識に突き動かされて「断固反対」とか言い出しそうな気がする。