正解はE:『スラムドッグ$ミリオネア』

 いかん、今日はほんとにしんどかった。もともと肩こり体質ですが、もう肩バリバリで首も腰も固まってしまった。でも全然原稿がスケジュールどおりに終わらない。編集者の方々には申し訳ありませんが、また来週頑張ります・・・頑張れるだろうか。

 先週 DVD で見た『スラムドッグ$ミリオネア』は素晴らしい映画でした。英米アカデミー賞はじめ賞を総なめにしただけのことはある。インドの貧困とそこから這い上がろうと闘う子供たちの姿をドライに描くタッチがいい。

 ブラジルなんかもそうですが、インドの貧困の難しさは、日本の格差問題とは桁が違います。一番の問題は、貧困層が完全に固定されていて、階層上昇の手段がほとんど絶無なことです。一度スラムに生まれついた人間は、死ぬまでスラムのごみためを這いずり回ることを運命づけられている。

 その地獄から抜け出すか細い糸は、四つしかありません。

 A.ギャングになる。(兄貴のサリームがたどった道)
 B.ギャングの娼婦になる。(主人公の恋人ラティカがたどった道)
 C.一発逆転のギャンブルに賭ける。(主人公ジャマールがたどった道)
 D.スポーツ、芸術などの分野で特異な才能を発揮する。(誰もいない)

 さあ、正解はどれだ。

 と聞かれても困りますよね。ほとんどの人にとっては、どれも正解じゃない。AとBは死傷率が高すぎるし、CとDは神に愛された幸運の持ち主でなければならない。現実的に考えるなら、八方塞がりです。そしてみんなスラムの中で朽ちていく。ブラジルでも「男の子が出世するにはサッカー選手かギャングになるかしかない」と言われますが、よく似た閉塞状況にあるのでしょう。

 映画には出てこないのだけど、このケースにおいて、唯一万人向けの正解が、実はひとつだけあります。しかもそれは分かりきっている。これです。

 E.学校で教育を受ける

 教育を受ければ、仕事の選択肢が広がります。仕事をすれば生きていくための技能を身に付けることもできる。下層の人間にとっては、これが最も確実な階層上昇の手段です。映画にも、主人公たちが幼少期に小学校らしきところへ通っているシーンがありますが、彼らは、その小学校すらドロップアウトしている。もっとも、好きでドロップアウトしたわけではなく、宗教抗争で母親を殺されて問答無用に孤児になってしまったのが原因です。

 今まさに近代化の過程をたどっている国家にとっても、国民皆教育はぜひとも必要なものです。だからインドも教育には力を入れているのだろうけど、なかなか下層まではカバーしきれていない。でも、『ザ・ホワイトハウス』でバートレット大統領が言ったように「教育は全ての問題に対する特効薬になりうる」。貧しければ貧しいほど、衣食住を切り詰めてでも教育費に回したほうがいい。

 そんなわけで、非常に見ごたえのある映画でした。おかげで同時上映した『おっぱいバレー』が霞んでしまった。いや、これはこれで悪くなかったんですけど、ちょっと『スラムドッグ』は格が違った。