パオロ・マッツァリーノ『つっこみ力』

論理とお笑いの融合:パオロ・マッツァリーノ『つっこみ力』

 私は自分自身、古い啓蒙主義者ですし、読む本もそっち方面に偏っています。こないだ紹介した内田・山形の両氏のほかに戸田山和久谷岡一郎宮崎哲弥、等々。

 これらの人々の力量と志は、それは深く尊敬しています。でも相変わらずエセ霊能者やオカルト詐欺師連中が跋扈するのを見るにつけ、「本当に論理と合理性は、いつかこいつらに勝てる日が来るの?」という疑念が浮かぶのも、人情の然らしむるところ。

 合理主義の背後には、「最後に真理は勝つ」という楽天的な前提(というか願望)があります。たとえ今は迷妄の支配する世であっても、いつの日か真理は遍く行き渡る。我々はその理想を一日も早く実現するため、迷妄を撒き散らす愚物どもを血祭りにあげ、無知蒙昧な大衆を教化してやらねばならないのであーる。時々砂漠に水を撒いている錯覚に襲われるけどドンマイ。われわれは神軍だ!

 「・・・まあまあ、若い衆。落ち着きなせえ。そのままじゃ逆立ちしても勝てまいよ。」

 身も蓋もないつっこみと共に登場するのは、ご存知、知の戯作者パオロ・マッツァリーノ(またの名を三流へっぽこ学者)。

 いえ別にね、言うことは間違ってないんです。でもね、怒るかもしれませんけど分かりにくいんですよね、あなた方。あと、つまんない。これ致命的。向こうさんは、知識と論理じゃあなた方の敵じゃないけど、面白いのが強みなんです。人間は生まれつき論理的に考えるようには作られていないけど、面白さには誰でも食いつく。偉大なライヘンバッハは「論理学は生徒の眠れる論理の力を呼び覚ます」と名言を吐きましたけど、それって逆に言うと、起こさないと眠ったままってことですよね。

 無論、ぽやんとした連中を叩き起こしてやるのも大事です。でも、まずはそのためにも勧誘しないと。もっとエンターテイメントに学ばねばなりません。

 え、そんなの邪道? 大衆への迎合? 困りましたねえ、これが私には珍しい王道路線であることをご理解いただけないとは。これは我が国の偉大な啓蒙家たちが何百年にわたって採用してきた由緒正しい戦術なんですぞ。

 さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。楽しい楽しい啓蒙漫談の始まりだよー!