音のない世界

 『ER』第8シーズンを走破。グリーン先生の最後の手紙をカーターが読み上げ、彼のあとを継ぐ決心をして形見の聴診器を手に取るシーンは、見ているこちらも万感迫って、胸が詰まりました。この重厚な感動は、長い時間を付き合わないと得られない。日本のドラマが連日特売しているような感動とは、悪いけどものが違う。

 しかしこのシーズンはマークにピーターという『ER』を黎明から支えた双璧が退場してしまい、大きな穴が空きました。残った役者はいまいち器が小さく、来シーズンからの構成が難しい。カーター一人ではいかにもきついし、コバッチュやケリーも、悪くはないけど、看板を背負えるほどのオーラはない。いじめっ子のロマノが最近、人情味のあるところを見せて株を上げていますが、これはどちらかというと「ジャイアン映画版の法則」(@空知英秋)に近い飛び道具なので、あまり頻繁には使えません。

 『ER』は、バックミュージックが少なく、かつ使う局面も限られていて、そこがまた渋くて私の好みだったのですが、シーズンを重ねてドラマが失速するにつれ、音楽が大きくなっていく。てこ入れも過剰になって、無駄に主役級の俳優に不幸が降りかかったりしていましたが、これは大味な印象を与えて逆効果でしょう。マンネリが大敵の長編ドラマには、避けがたいジレンマなのでしょうけど。それでも、常に一定のレベルをクリアしているのはさすがです。来シーズンもとりあえず見ますよ。

 それにしてもマルッチは本当にいいとこないまま去っていった。何かマルッチ役の俳優に恨みでもあるんじゃないというぐらい、とことん冷たい扱いを受けていました。彼には、一つもいいエピソードがなくてちょっと同情します。嫌われてたのかな。