イニシャルとランニング

 私たちが物を買うとき、多くのケースでは、(キャッシュかカードかの違いはあるにせよ)購入するときに一度だけ出費することが一般的です。しかし、金額の大きい買い物になればなるほど、そういう初期購入(イニシャル)の費用に加えて、運用のために継続的に発生するコスト(ランニング)が大きな比重を占めるようになります。バイク、車、家、会社、etc. ...。ランニングにかかる保守費は、結構ばかになりません。だから大きい買い物をするときは、イニシャルだけでなくランニングを含めた長期的なトータル・コスト(TCO)で考えることが大事になります。例えば、マンションで問題になりやすいのが、修繕費積立金で、時々、トラブルの原因になってニュースでも報じられます。

 イニシャルを低く見せ、ランニングを高く設定して儲けるという点では、ローン(分割払い)も同じです。これは正確にはイニシャルを分割してランニングに上乗せしていると考えるべきでしょう。ときどき、住宅ローンの広告で、「頭金ゼロで購入可能」を謳っているものがありますが、本当は、頭金(イニシャル)が少なければ少ないほど、結局トータルでは高くついて損をします。これは、つい目先の支払いの少なさに眩んでしまう人間心理を利用したビジネス・モデルです。だからあまりイニシャルの低さを強調するデベロッパーは信用しない方がいい(どこでもやってる、と言われるとそれまでですが)。

 ランニング・コストの中でも初期のコストを比較的低く見せるタイプのモデルもあって、変動金利型のローンの一部がそうです。こういうのは、当初の3年ぐらいは 1% 前後の非常に低い金利に設定されているので、最初は楽勝と思っていたら、数年後にいきなり返済額が数倍に跳ね上がったりして、よく考えて決断しないと首が絞まります。

 今回の金融危機の火付けとしてすっかり悪名高くなったサブプライム・ローンは、この方式の極端なやつです。なんでアメリカ人(のしかもビンボーな層)が、どう考えても返済できる見込みのないこのローンに群がったかというと、彼らの多くが「今はオレたいした収入ないけど、数年後はなんだかビッグなチャンスをつかんで金持ちになってそうな予感がするんだよね」という無根拠なアメリカン・ドリームを信じていたから・・・ではありません。土地の値段が右肩上がりだという前提を信じていたからです。既に土地バブルの崩壊を経験している日本人には信じられないことですが、アメリカではずっと土地の値段は上がる一方だったので、土地を売ればローンを返済してもお釣りが来る、と買う側も売る側も考えていたのです。なにを根拠にそんな無謀な・・・と思うでしょうが、日本人だって笑えない。20年前は私たちの多くが同じことをかんがえて、同じようにバブル崩壊に直面したのだから。

 こういう長期の戦略を設計するとき手堅いのは、固定と変動の金利を組み合わせてポートフォリオにすることです。それで、将来どっちに転んでも大きな損はしない。もちろんその代わり、大きな儲けもないのだけど、長期的に生き残るためには、一つの希望的シナリオに特化した戦略より、最も厳しい予測に対応できる戦略のが確率が高いのです。

 まあ、キャッシュで家が買えれば、それが一番いいのだけど。