ねずみたちのジハード

 最近、マドフ波和二と、日米で相次いで大物ネズミ講のボスが逮捕される事態となりました。ねずみ講は、正式には無限連鎖講と言いますが、これは下位会員の金品を上位会員の配当に回す純粋なタイプの連鎖講を指すもので、実際には会員が金品の再販売を行ってマージンを配当とする連鎖販売取引のタイプも、ひと括りにねずみ講とかマルチと呼ばれることも多い。しかし、今回の2件はいずれも「会員数が無限に増え続ける」という違法な前提の上にたっているようなので、広くねずみ講と呼んで差し支えないでしょう。

 会員数が無限に増えるなどありえないのだから、ねずみ講がいつか破綻する日が来る、ということは自明の理です。それなのにこの詐欺に引っかかる人が後を絶たないのは、「自分だけはまだ大丈夫」と考える手前勝手な心理がどうしても働いてしまう、というのが一つ。もう一つは、ねずみ講で儲けられる人も、一握りながら存在するという事実があるからです。英語でPyramid schemeと呼ぶことからも分かるとおり、ピラミッドのごく一部上層 ―― つまりファラオ(創始者)と貴族(初期会員) ―― だけは、ちゃんと儲けが出るようになっているのです。人間は、自分が平民を収奪する権利を持った貴族だと勘違いしやすい。実際は、私たちの9割が平民(or スレイブ)なのだけど。

 でも、実は今の日本には、まだ摘発されていない巨大なねずみ講が、一つ残っているのです。私たちの年金は、賦課方式という、後の世代が先行世代を養う方式を採用しています。このやり方には大きな問題があって、世代間に大きな不公平が生じるのです。これは、そもそも年金の計算が人口が増えつづけることを前提にしているからです。だからその前提が崩れると、今回の円天事件と同じように、端的に破綻します。

 中学や高校の教科書で、「今は5人で一人のお年寄りを支えていますが、○年後には3人で一人のお年寄りを支えることになります」という記述を読んだ覚えがありませんか? さらっと書かれているので読み飛ばしがちですが、これって要するに「国家が財政をねずみ講で計画しています」という意味に他なりません。国が少子化問題をワアワア騒ぐのは、このねずみ講に気付いて欲しくないので、目先を逸らせる目的もあるのです。だって積立方式だったら、分母と分子が同じように増減するので、少子化になっても全然問題ないからです(ただし、インフレ/デフレによる貨幣価値の変動をどう給付に反映するかという課題は残る)。

 だから、私は少なくとも賦課方式と積立方式を組み合わせて使う方が、リスク分散の点でもいいと思うのですが、でもそのためには、ご老人方が、自分たちがねずみ講によって若い世代から収奪しようと目論んでいたことを認めなければならない。これは絶望的に難しいことで期待できないので、残る望みは、若い世代がもっと怒ることです。「俺たちを犠牲にして逃げ切ろうったって、そうはいかねえ。落とし前はきっちりつけさせてもらうぜ」と。そうでないと、後でどうなっても知らないよ。