アメリカ人にだってグローバリズムが嫌いなやつはいるから気をつけろ

 町山さんの「未公開映画を見るテレビ」第3回は『THE YES MEN』。これも前2回の『ウォルマート』と同じく反グローバリズムがテーマ。そして同じようにドキュメンタリーとしては凡作だと思います。政治的主張が単純すぎてげんなりする。日本人受けしそうなやつということで選んでるのかもしれないけど、もう少し他のテーマのドキュメンタリも見てみたいなあ。個人的にはキリスト教右派の極端な教義と子供への洗脳まがいの布教をテーマにした『ジーザス・キャンプ』とか興味がある。もっとも、THE YES MEN の金持ちをおちょくる悪戯に全身全霊をかける情熱は、素直に凄いと思う。それに、彼らが皮肉のつもりで喋っていた演説は、どうしてなかなか堂にいっていました。

 『ウォルマート』もそうだったけど、こういう映画を見ていると、アメリカ人のみんながみんなグローバリストの自由放任主義万歳な連中ばかりではない、というのが分かります。安定した雇用と高い関税障壁と手厚い社会保障と強い労働組合とコミュニティの連帯感が好きで、ミルトン・フリードマンを悪魔の手先だと思っているアメリカ人も少なくない。そうでないと、民主党が政権をとることもなかったでしょう。再就職が比較的容易なエリートである医者にとってすら、終身在職権(テニュア)は喉から手が出るほど欲しい、ということは『ER』が描くとおりです。

 アメリカの調査会社 Rasmussen Reports のが4月9日に公表した世論調査によれば、「アメリカの成人のうち、資本主義が社会主義より良いと思っている割合は 53% にすぎない」という。

最新の電話による全国調査によると、20%が資本主義に否定的で、社会主義のが良いと答えた。27% がどちらが良いかわからないと答えた。

30歳以下に限るとさらにこの比率は拮抗して、資本主義支持が 37%、社会主義支持が 33%、決めかねるとしたのが 30%だった。……40歳以上の成人は、資本主義支持が圧倒的で、この年齢層で社会主義を支持するのは、13%にとどまる。

 
 あと、このドキュメンタリーで図らずも面白かったのは、彼らが(皮肉のつもりで)「選挙権を売買できる制度を作ることが選挙を効率化する」という主張をしたら、政経済界のリーダーたちはそれをまともな提案だと受け取ったので「なんてひどい連中だ」と呆れた、という話。

 選挙権を売ると聞くと確かにとんでもない話に聞こえますが、でも私たちは、権利の売買というのは日常的にやっています。ゴルフの会員権とか電話の加入権とか。国レベルでも排出権取引をしています。

 だから別に、権利の売買自体が全くありえないわけでも非合法なわけでもありません。権利の市場では、色んな権利が、野菜や卵と同じように、そのときどきの時価で売られます。そう考えると、なぜ選挙権を売買の対象にしてはならないか、という理由は「それが権利だから」というものではありえません。この提案が真剣に受け止められたのも、政経済界のリーダーたちがこの主張に「一理ある」と思ったからでしょう。

 それでも、THE YES MEN たちが「とんでもない」と思う気持ちも分かる。私もそう感じるからです。おそらく、このロジックを無制限に認めたら、生存権自由権のような基本的人権まで売買の対象になるのではないか、という不安が頭をよぎるからでしょう。さて、そうすると、売買してよい権利と売買してはいけない権利の境目は、どこにあるのでしょう。その基準はいったい何で、禁止には正当な理由があるのか。

 THE YES MEN がつまらないのは、そういう根源的なことを考えずに一時のテンションに安易に身を任せてしまうからです。彼らはその行動の破天荒さに似合わず、実は頭が堅いのではないかと思う。