リオちゃんによろしく

 経済の調子はなかなか上向かず、明るいニュースが少ないなか、東京がオリンピック開催地のコンテストで落選したというのは、久々に会心のガッツポーズが出るグッド・ニュースでした。私のようにスポーツ観戦に関心がない人間にとっては、オリンピックのようなイベントはただでさえ人の多い東京がさらに混雑することを意味するだけなので、本当に嬉しい。リオには心からお祝いを言いたい。そもそも都民でオリンピックを招致したいと本気で考えていた人って、都知事(プラス「特需」が期待できる土建業者)以外にいたのでしょうか? 私の周囲では、そもそもこの話題が出たことがない。招致活動に空費された税金は惜しいけれど、でもこれ以上傷口は広がらないのでよしとしましょう。

 そんな個人的好悪のレベルを離れてもう少し大きな視点で見ても、東京でオリンピックをやるメリットは、日本(東京)にとっても世界にとってもほとんどありません。オリンピック開催のメリットは、まず開催国にとっては、それを口実に都市のインフラ整備を進めて一気に近代化を図れることです。国際社会での認知度もあがるので、先進国の仲間入りを果たすまたとないチャンスです。だからオリンピックはそういう新興国に与えられるケースが少なくない。東京、ソウル、北京がそうだったし、今回のリオもそうです。その点で、インフラが十分整備されていて、むしろ無駄なハコモノを削る方向に針が振れている日本で開くメリットは、もうありません。経済刺激効果を期待する声もあるようですが、日韓ワールドカップのときに見られたように、結局みんなテレビを見るために家にこもるので、繁華街はむしろさびれたりして、相殺される可能性が高い。こういう利点・欠点について、『Economist』が簡潔にまとめてくれています。

 しかしオリンピックを招致することはそんなに栄誉あることだろうか? プラスの効果というのは、まあはっきりしている。巨大ビルの建設プロジェクトは多くの人々に仕事を与え、その人々が今度は稼ぎを経済の他の部分で消費する。オリンピックがなければこの先何年も実行されなかっただろう鉄道や道路の建設も進むだろう。観戦や観光のため、世界中から旅行者が訪れる。これら全ては、とりわけこんな不況の時代には実に魅力的に響く。

 だがオリンピックに賛成派の活動家は、不利益については強調しない。開催地の都市にビルが建設されることは地価と物価を上昇させるため、他の場所での投資をはじき出してしまう。急いでビルを作ることで、コストも上がる。競技に適した建物は、その後、都市にとって使いやすいものにはならない。それに、ゲームを見に来る旅行者の数は、純粋なプラスにはならない。混雑したりインフレの起きた宿泊費のせいで、来るのを断念する人々も出るかもしれない。
「Rio’s sporting carnival」

 またオリンピックを開くことには、上記のような経済的側面だけでなく、国際政治的な側面もあります。つまり、北京のときに顕著だったように、開催国に注目を向けることで、その国が抱える問題を明るみに出す効果があるのです。中国がチベット少数民族に苛烈な弾圧を加えていたことは、オリンピックがなければあれほど世界中の人々の耳目に届くことはなかった。これもやはり治安や人権の面で遅れている途上国であるほど効果が高い。日本にはオリンピックの力を借りなければいけないような大きい暗部は残っていません(あればW杯のときに問題になっている)。

 リオ市民は無邪気に歓喜を爆発させていますが、ブラジル政府とリオ市当局は今からこの問題に取り掛かっているはずです。ブラジルも決して治安のいい国ではないし、貧困層も多い(現政権の重点政策の一つは「飢餓対策」です)。オリンピック旅行客が襲われたというニュースや「経済成長の裏で 〜リオ・オリンピックの光と影〜」なんてドキュメンタリーを流されては面目丸つぶれになって、せっかくのオリンピックも逆効果です(事実、『Economist』は早速、リオの暴力犯罪と薬物に関する記事を出している)。きっと関係者の間では「北京の二の舞になるな」が合言葉になっているでしょう。内政に口を出されるのはどの国にとっても鬱陶しいし、ピリピリするものです。

 それでも今回の落選が心理的に片付かないという人には、下の勝敗表を見ていただきたい。ここから分かるように、東京の戦績はそんなに悪くありません。6回立候補して全敗というデトロイトのような都市もあります。GM 破綻でどん底状態の今こそあげてもいいと思いませんか?

 ところで表を見ていて目をひくのは、ロンドンの3戦全勝という勝率です。ちょっと贔屓されすぎな気がするけど、でも2回目が1948年であることを考えると、東京よりも間隔は長い。