神の手によらずして

 『Economist』に面白い世論調査が出ています。2006年に欧米諸国を対象に行った進化論の支持率です。全般に50%を超える高率のなか、アメリカは相変わらず先進国の中ではずば抜けた低さを示しているのが印象的です。それでも、ギャラップの調査では徐々に支持率は上がってきているらしいのだけど。

 進化という現象は長大な時間を通して進行するプロセスであるため、観察することは非常に難しいものです。その意味では、進化論は常に仮説にとどまる理論です。でも、これを支持する多くの証拠が見つかっており、かつ最も説明能力の高い理論である以上、これを定説と受け入れるのが科学的に正しい態度であることは言うまでもありません。日本でこの調査やったら、多分9割の人が支持すると答えるので、あまり面白い結果は出ない。

 ところが、非キリスト教圏の人間にはなかなか理解しがたいことですが、進化論は、「神が人を作った」という聖書の記述と真っ向から衝突するため、中絶と同性愛と並んで宗教 VS 科学の争いの火種になる論件なのです。そのため、キリスト教国では進化論の浸透度をもって、科学と宗教のどちらの勢力が強いかのバロメータにすることができる、というわけです(『Economist』のアンケートもそういう意図でやっている)。ギリシアで進化論の人気がないのも、やはりギリシア正教会の影響力によるものでしょう。国民の99%がイスラム教徒のトルコが最下位の理由は、私には分かりません。イスラム教でもやっぱり禁じられた理論なのかな。

 先進国中、唯一といってもいい宗教国家アメリカでは、数十年前まで南部では進化論を公立学校で教えることが法律で禁止されていましたし、進化論を教えた教師が訴えられる進化論裁判も何件も起きています。私たちがニュースで見るアメリカはワシントンとかニューヨークの都会ばかりなので意外な気がしますが、町山智浩が繰り返し警告するように、むしろそういうアメリカこそが例外で、かの国の95%は、聖書を真剣に信じる人々が住むド田舎によって構成されているのです。