派遣社員がいなくても大丈夫

 城繁幸氏のブログ経由で知ったのですが、なるほどねえ、そういうやり方があったのか、と感心しました。ヤマハ発動機トヨタが正社員の貸し借りをしている、というニュースです。短いので全文引用させていただきます。

ヤマハ発動機は6日、正社員約270人をトヨタ自動車へ「応援要員」として派遣したことを明らかにした。欧米向けの二輪車販売が不振で、余剰人員の雇用を確保するのが狙い。

 トヨタの堤工場(愛知県豊田市)などで、販売が好調なハイブリッド車プリウス」の生産にあたる。派遣はすでに行われており、12月までのグループと来年3月までのグループがあるという。

 うーむ見事なソリューション。見事なワークシェアリングです。ただし正社員限定の。

 従来ならば、売り上げ好調な製造業が人員を一時的に増やしたいと思えば、派遣社員期間工)を雇うのが一般的でした。でも、このニュースが意味するのは、トヨタが「もうそういうことはしたくない」と思っている、ということです。他社とはいえ正社員を借りるのだから、コスト的に派遣社員より安いということもないでしょうに、なぜトヨタ派遣社員を雇わなくなったのか?

 答えは簡単です。派遣社員を雇えば、未来のどこかで解雇する必要がある。でも去年の「派遣村」騒動などで、派遣社員の解雇が倫理的な悪行であるかのようなイメージが世間に定着してしまった。最初から派遣社員を雇わなければ、派遣社員をクビにする必要もない。コロンブスの卵です。私は以前のエントリで、「派遣労働を禁止すれば、企業はアルバイトや海外へのアウトソースで代替するだろう」という予想を書きましたが、もう一つ、「正社員限定ワークシェアリング」という解決策もあったわけです。これは気づかなかった。

 今回のニュースからも、派遣労働禁止によって一番損をしているのが派遣労働者であることが分かります。企業が派遣労働者の雇用を怖がるようになった結果、得られたはずの職を失うことになったからです。「派遣労働者を守れ」と叫んで派遣労働禁止を訴えていた政権与党やメディアは、自分たちのしたことがどんな結果をもたらしたか知っているだろうか。

 正規労働者と非正規労働者の間の就業条件の格差を本当になくすには、OECD対日審査報告書で言うように、「正規労働者の雇用保護を引き下げる」(p.4)、つまり正社員の減給や解雇をしやすくすることが必要です。連合という労組団体を支持母体とする民主党にこの政策を実現してもらうのは難しい注文でしょうから、これは次の与党の優先課題になるでしょう。