消費税が景気を救うなら

 麻生総理が選挙前だというのに大胆にも消費税率のアップを検討していると発表して、うげっと思った人も多いでしょう。私の周囲にも、このニュースを聞いていよいよ今のうちにマンションを買っておくか、と呟いている人がいます。でかい買い物のときは消費税だけで何百万になるのだから、誰だって真剣に悩むところです。

 消費税率を上げる一番の理由は、もちろん財源の確保でしょうけど、裏には多分もう一つ期待されている役割があります。それは、景気対策です。

 こう書くと、むしろ「消費税がアップしたらみんな物を買わなくなるのでは。以前消費税が導入されたときもそうだったじゃない」と思う人もいるでしょう。確かに、そうなる可能性もある。でも同時に、上に挙げたように、事前にマンション購入を考える心理も働くので、一時的な駆け込み需要も増えることが期待できる。そうすると、物が(一時的に)売れるので、景気が上向く、という理屈。

 従って、景気対策としての消費税率アップの効果は、上げる前の需要増加と上げた後の需要減退の差し引きで測られることになります。効果はやってみないと分からないけど、どうせ財政上の理由で上げざるを得ないなら、せいぜい景気対策としても利用したい、と考えるのが合理的です。それなら、すぐに上げるのではなく、「あげるぞあげるぞ」と狼少年のごとく何度もおどかして、なかなか上げない、というのが有効です。「あげまーす」とアナウンスするたびに、駆け込み需要が期待できる。そしてみんなが学習して脅迫効果が薄れたところで、本当に上げる。

 これを繰り返すと、何度でも景気対策ができてお手軽です。今回はとりあえず7%にするというけど、これもすぐには上げない。何度もアナウンスしてみんなの購買欲を煽る。10%に上げるときも同様です。「3年後にあげるぞ」と言っておいて、その時になったら「1年後にあげるぞ」と言う。1年たったら「もうあと1年だけ待つ」と言う。

 と、こういう景気対策を語っているのが、山形浩生『新教養主義宣言』(「消費税を七%にあげよう!」)。そして彼がヒントにしたのが、こないだノーベル賞をもらった経済学者のポール・クルーグマンらによるインフレターゲット論です。今回の消費税率アップで、彼らの提案が本当にうまくいくかどうか、実地検証ができるでしょう。

 ただ、消費税を上げることに対する庶民の反発は根強いものがあって(私だって気分的には嫌だ)、「これでまた格差が広がる」とか「弱者切り捨てだ」という批判は間違いなく受けでしょう。ええかっこしいの麻生さんには辛かろう。なので、私としてはこれに併せて物品税を復活させれば完璧だと思う。平成生まれの若い人は知らないかもしれないけど、この税は、むかし消費税の代わりにあったもので、消費税の導入とともに消えました。物品税と消費税が違うのは、前者は全ての商品にかかるのではなく、宝石、毛皮、電化製品、乗用車といった奢侈品と見なされた物に限って課された、という点です(住宅や土地にかかったかどうかは、私も覚えていない)。このため、公平感のある税という印象が強く、消費税導入時に廃止されたときは、金持ち優遇策だという批判を受けました。

 「物品税を復活させるぞ」と脅せば、特に高級な奢侈品が多く売れることになり、それだけ景気刺激の効果も大きいというものです。私は個人的に物品税が課されるような商品を買う予定は今後一切ないので、導入していただいても全然平気。皆さんもきっと平気でしょう。渋い顔するのは麻生総理のような富裕層だけど、これでバランスもとれて、おあいこです。