隠し砦には何がある

 オバマ米大統領の政策は、経済面に注目が集まっていますが、彼が大統領に就任するや否や、速攻で決定した重要な方針の一つに、グァンタナモ米軍基地の閉鎖があります。

 グァンタナモ米軍基地、別の名をグァンタナモ収容所。アメリカの天敵であるキューバ国内にあるのに、管理者はアメリカという不思議な施設で、主にアメリカと敵対するイスラム過激派およびその協力者と目された政治犯を収容しています。周囲は地雷原で脱走は不可能で、アメリカのメディアからも内側を隠しているため、実態が分かりにい。しかもキューバでもアメリカでもないので、どちらの法律も適用されないという、現代に残された治外法権の土地です。ここに収容される人々は「捕虜」という扱いにもならないため、ジュネーヴ条約で定められた捕虜の人権保護規定も適用されない、まさに法と法の隙間です。実際にはテロや犯罪とは無関係の人々まで、嫌疑があるというだけで強制的に収容され、人権無視の拷問が行われているとして、国内外から強い批判を浴びていました。特に赤十字アムネスティなど人権団体がカンカンだった。まったく、一体いつの時代の話なのか、と目を疑ってしまう。

 アメリカは、この土地の租借料をキューバに払っているのですが、キューバ側はこれを頑として受け取りません。それも当たり前の話で、もし受け取ればアメリカの犯罪に手を貸したことを認めてしまい、一緒に世界中からのバッシングに曝される。ただでさえ立ち位置の危ないキューバがそんなことできるはずない。日本で喩えるなら、北朝鮮の一部を日本が借り受けて、そこに政治犯専用の収容所を作って拷問を行うようなものです。戦前の日本ならやったでしょうけど、今はやらない。やればもう法治国家の看板は降ろさねばならない。それぐらい酷い話です。過去数年のアメリカがどれだけ暴走していたか、よく分かるというものです。

 でもブッシュは、結局これを自力で廃止することはできませんでした(彼も廃止しようとは試みたことはあるが、できなかった)。一方、弁護士でもあるオバマは、こんな法の支配の根幹を揺るがすような事例を認められるはずもなく、以前から廃止を支持していました。この点に関して、アメリカもようやく一時の戦争シンドロームから醒めて正気に戻ろうとしているのです。