『Economist』:送り主に返却されたし

 日本の政治家は、意外に議論好きなのかもしれない。ゆうちょ銀行の預金受け入れ限度額を2000万円に引き上げるという亀井大臣の案が明らかにされたとき、何人かの大臣はこれを公然と非難しました。亀井氏も負けておらず、テレビで思い切り財務大臣を罵倒していた。

 それでも、3月30日に亀井案は政府によって了承され、300兆以上の資産を持つ世界最大の銀行である日本郵政は、さらに預金額を最大2倍に増やすことが可能になりました。

 邦銀は、もちろんこの優遇措置に不平を漏らしています。日本人の貯蓄はますます安全を求めて郵貯の口座へと移ることになり、彼らも食い扶持を奪われる。株式市場へ流れ込む資金が減ることで、民間企業の資金繰りも悪化していくのは確実です。最終的には「再国有化」がゴールになるであろう亀井氏の一連の政策は、日本の財政市場を「過去へ逆戻りさせる」ものだ ―― そう批判しているのは、かの竹中平蔵氏です。

 日本郵政は、長らく国家の道具として使われてきました。その資金の 80% は国債の買取に使われ、今では 683 兆円の市場の 1/3 を保有するに至っています。これが、今度は、政府がばらまき公共事業に金を使うことを助長し、より生産的な用途に資金がいきわたることを阻害してきた。小泉元首相が郵政民営化を掲げた理由が、まさにこの事態を打破するためでした。別に田舎に郵便局を残すかどうかなんてどうでもいい話で、本命は、郵貯にロックインされている資産を吐き出させ、株式市場へ多くの資金を供給することだったのです。彼の建てた計画の中には、今年早々に日本郵政の株式を売却することも含まれていましたが、計画は完全に頓挫したように見える。

 亀井氏は、日本人だけの手によって国債を買い支えることを考えているのでしょう。そして、そのために政府の言うことを聞く国営銀行を作ろうとしている(今でも日銀があるけれど、日銀には独立性があるので、あまり政府の言うことを聞かない)。でも、果たしてこのシナリオはうまくいくのか。 IMFの試算によれば、高齢化とそれに伴う資産の消費によって、2015年までには日本の負債は国全体の資産総額を上回るといいます。その場合、日本は負債をファイナンスするために、否応なしに海外の投資家に頼らざるを得なくなるのですが、海外投資家は、日本人のように低い利回りには納得してくれない。さて、そのとき何が起こるかといえば……。

 この不吉な未来図は、実現にそれほど時間を要しません。わずか4年後にはやってくる可能性があり、10年以内にはほぼ確実に実現します。破局を回避するためには、「根本的な改革が急務(urgently needs radical change)」というのが、『Economist』からの、ほとんど最後通牒に近い警告ですが、日本はまだ夢遊病から目覚める気配がない。

 でも、もしかすると、30代以下の若い世代にとっては、いっそ、一度焼け野原を経験するのも悪くないかもしれない。既得権もしがらみも、この国を支配していた老人たちもいなくなった見晴らしのいい焼け跡で、ゼロから新しい社会を作っていくのは、案外今よりずっと楽しくて希望ある仕事のような気もします。もしそういう焼け野原に立つのなら、若い方が気力体力も残っていてやり直しやすい。海外投資家は既に日本の「メルトダウン」に対する準備を始めているそうですが、日本の若者もその現実的な判断を見習うべきです。もちろん、タイタニックが沈む前に逃げ出すという選択肢も、十分ありです。国なんてただの乗り物なので、乗員の生命が危機に瀕したときは捨てて逃げるのも、正しい判断です。