ジャパニーズ・ビューティ

 昨日から休みをとって箱根へ小旅行に出かけてきました。今回泊まった宿は、小涌谷にある翠松園という旅館。初めて利用しましたが、ゆったりした広い敷地の中、自然の静けさに満ちていて、ゆっくり疲れを癒せる宿でした。従業員の方々の接遇も文句のないレベル。

 行きと帰りの電車では、最近話題のたぬきちの「リストラなう」日記を一気読み。最新の 4/23 まで読んでしまった。退職を決意した瞬間からはっちゃけ始める中年の暴走ぶりが、逞しくて好感を持ちました。たぶん、氏もブログで言及している『アメリカン・ビューティ』(これは20世紀アメリカが遺した傑作映画の一つ)の主人公レスターがロール・モデルなのでしょう。冴えない広告マンだったレスターも、リストラで会社からゴミ屑のように捨てられたことを機に、自分の人生を取り戻す戦いを始めたのでした。

 リストラ後、レスター親父は、妻や子供から愛想をつかされ(妻からは冗談抜きに殺されかけた)、マクドナルドでバイトとして働くなど傍目には転落人生にしか見えない晩年を送ったけれど、本人は自分にしか分からない人生の美しさを見つけ、満足して死んでいった。たぬきち氏も、自分にしか分からない美しさを見つけて死ぬことを祈ります。

 でも、そういう素直な共感とは別に、読んでいると色々考えさせられるブログでした。特に、「その12 若者はみな悲しい」「その21 去る側からの伝言」で取り上げられている若い世代についての問題は、私も他人事とは思えない。

 「その21」でたぬきち氏を批判する後輩の言うとおり、氏は主観的にはともかく、相対的には恵まれた立場にいる。年収1000万で45歳独身、住宅ローンなしという身軽さは、一般的な同世代の人間やより若い世代に比べると大変有利です(だからこそ、早期退職に応じられた)。いま30台前半の就職氷河期世代の多くは、会社を辞めるという選択肢も取れないまま、たぬきち氏たち高給取りの高齢世代を養うために過酷な労働を強いられている。特に氏の会社は完全な年功序列制が敷かれているということなので、前線の若手の損耗率は酷いことになっているでしょう。快速艇でさっさと逃げ出す氏を恨む(おそらくロスジェネの)後輩の心情は、私にはよく分かる。

 それでも、後輩に対してたぬきち氏の送る助言 ―― 会社に頼らずフリーでも仕事をできるようになれ ―― は、正解の一つです。 船が沈んでいくとき、乗員の取れる対策は、基本的に二つしかありません。逃げるか、船を修理するかです。たぬきち氏は前者を支持した。これは佐々木俊尚氏のセルフ・ブランディング戦略の考えに影響を受けたものでしょうが、出版という固有名で仕事をしやすい業界では、この方法は有効なはず。

 私の働く IT 業界も同じぐらい固有名で仕事をしやすい環境なので、やっぱり相応にフリーランスや会社勤めにしてもやたらフリーな空気をまとった人が多いです。今後は、こういう自由人が強みを発揮する時代になるだろうし、そうなればもっと社会は面白くなると期待しています。

 最後に勝つのは自由主義者だ。