頑張れ共和党:『スーパーチューズデー』

 評価:☆☆☆★★

 映画の出来としては、特に見るべきもののない凡作です。もの凄くひどいわけでもないのですが、わざわざ映画館に見に行くほどのものではありません。金曜ロードショーでやっていたら見てもいい、というレベル。というわけで評価は★二つ。(ちなみに★一つは、金曜ロードショーでやっていても見る価値のないレベル)。

 プロットとしては、民主党の大統領候補を争う予備選の内幕暴露物ですが、これが全く迫力に欠ける。世間知らずの学生ならともかく、いい大人なら「まあその程度のことは、選挙なら当然あるよね」という程度の駆け引きしか出てこない。大統領候補(ジョージ・くるくるクルーニー)にも人格的魅力がないので、彼がシモのユルさを発揮して窮地に陥っても、些かも応援する気が起きない(だいたい、「インターンとやっちゃう大統領」という荒業は、本職のクリントンがすでにやってしまっているので、いまさら物語で描いても意外性がない)。誰彼なしにベッドインするヒロインの女の子は、最後だけ突然いい子ちゃんになってしまい、キャラクター造形が破綻している。モニカ・ルインスキーみたいに手記を出版するくらいのビッチの方が物語りが盛り上がったと思う。

 ・・・というように、クルーニーの監督としてのダメさが分かるのが、この映画の唯一の収穫というぐらい、見るところがない。ただ、この映画単独ではなく、他の「選挙物」の作品と並べて考えると、またちょっと違った面白さも見えてきます。

 本作の主人公たちは、民主党陣営です。共和党は影すら出てきません。せいぜい会話の中で「共和党の候補はワールドクラスのバカ揃いだ」とこき下ろされる程度。これはこの映画に限った話ではなく、大体、米国の政治とか選挙を扱う物語の主人公は民主党に属しています。『24』のパーマー大統領や『ホワイトハウス』のバートレット大統領も民主党だし、共和党は、出てきたとしても、バカな敵役とか弱者切捨てを主張する人でなし、という扱いになる。

 この理由は、三つ考えられます。一つ目は、共和党が実際にピーの集まりという側面を持っているので、ヒューマンドラマの主人公には不適格なことです。ブッシュジュニアを主人公にした映画を作れと言われても、ご当人にあまりリスペクトできる資質がないのでモデルにしにくい。サラ・ペイリンを主人公にシリアスドラマを作れと言われたら、ハリウッドの敏腕プロデューサーでも頭を抱えるでしょう。

 二つ目は、一つ目とも絡むのですが、共和党はいつでも中傷や裏取引だらけの泥仕合をやっているイメージが定着していて、今さら内幕を暴露したところで、視聴者からしてみたら「いや、全部知ってるから」という内容にしかならない。本作みたいな映画は、多少でもクリーンな「いいモン」のイメージを持つ民主党でないと成立しない。

 そして三つ目は、ハリウッドやテレビ業界が、ことあるごとに表現の自由を規制しようとする共和党を嫌いなことです。共和党の背後にはキリスト教福音派がバックについているので、暴力やセックスのメディア表現の規制に積極的です。また、共和党の支持層には人種差別的な思想の持ち主も多く、ユダヤ系の多いハリウッドとはその点でもそりが合わない。そんなわけで、ハリウッドは民主党贔屓です。民主党支持を公言する映画人は多いし、『ホワイトハウス』でも、ハリウッドが民主党の大口スポンサーであることを描くエピソードがあった。

 でも私が思うに、この民主党=いいモン、共和党=わるモンというメディアの作り上げた構図はマンネリ化している。最近は共和党の御用テレビ局である FOX がヨイショ番組を作っていますが、その FOX にして、『24』を作るときに大統領の所属を民主党にせざるをえなかった。そうではない。いま求められているのは、共和党を主人公にした政治ドラマです。

 本作も、思い切って舞台を共和党予備選にしたならば、もっと面白い映画に仕上がっていたはずです。対立候補がケイマン諸島に隠し口座を持っているとか、娘が中絶手術を受けたというデマを流しあい、討論番組では候補者が「お前は社会主義者だ!」とか「移民が白人の職を奪っている!」とがなりあう。うおおお考えただけでもワクワクするじゃありませんか。そういう映画だったら、金払ってでも見てみたい。