不人気者で行こう

 いよいよ今週はオバマ大統領が誕生することになります。その裏で、既に過去の人扱いで、ひっそりとホワイトハウスを去るのは、我らがジョージです。二つの戦争の後始末と巨額の財政赤字に古今稀な不況と滅茶苦茶な健康保険制度を残して去る彼に対する評価は保守・リベラル問わず厳しいものです。彼と同じ新自由主義的なスタンスを採る『Ecomonist』でさえ、「惜しむ人間はほとんどいない」と冷淡な調子(「The frat boy ships out」)。

 でもそんな逆境にめげないというか、気付かないのがブッシュのブッシュたるゆえんで、記事にもありますが、彼が自分をトルーマン元大統領になぞらえているのは有名な話です。トルーマンも、在任中はけっこう不人気でした。第二次大戦で国内外の反対を押し切って原爆投下を強行してアメリカに大量虐殺者の汚名を着せ、戦後は疲弊した経済の立て直しよりも対ソ連との冷戦を優先させ、朝鮮戦争にも深くコミットしました。当時、「もういい加減にしてくれんかな」と思う国民は多かった。今のアメリカの状況と、確かに似ています。

 ですがその後、時代が下るにつれて、トルーマンの評価は高まります。日本とソ連を打倒して、今のアメリカがあるのは彼のおかげだ、と見直されたのです(国民に嫌われることを覚悟の上で苦い薬を処方した点で、日本の岸信介に似ている。岸は今でも不人気ですが)。

 実際、彼の評判が良い証拠として、私は彼の名を冠した人気ドラマの人気登場人物をすぐに思い浮かべられます。『ツイン・ピークス』のハリー・S・トルーマン保安官と『ER』の主人公といっていいジョン・トルーマン・カーター。二人とも、熱心なファンを多く擁するナイスガイです。こういう人気キャラに負の含意を持った大統領の名前が付けられることは、普通ないでしょう(昔から文学作品やドラマでは、登場人物の名前は細心の注意を払ってつけられるものです)。

 ハリーにいたっては、大統領と同姓同名です。デヴィッド・リンチは、彼の名前は大統領にちなんでつけたのではない、とわざわざ明言していますが、これは彼一流の撹乱作戦であって、保安官事務所にはトルーマン大統領の肖像が壁にかけられているし、鹿の剥製の頭には、大統領の名言「The Buck Stopped Here」(責任は俺が取る)が刻まれています。リンチは「分かる人にだけ分かる」仕方で、ハリーを大統領にだぶらせるよう、メッセージを送っている。「トルーマン」という響きから、「意志強固で忍耐強く、逆境で本領を発揮する」という意味が含まれていることを、視聴者は察知するのです。そういえば、カーターも混乱時ほどリーダーシップを発揮するタイプとして描かれていた。ERが細菌汚染を受けてパニックに陥ったとき、感染して倒れた部長のケリーに代わって臨時の指揮官となったのが、カーターでした。ここではケリーがルーズベルト、カーターがトルーマンに擬せられている(戦争中、トルーマンも、ルーズベルト大統領が死んだため、急遽、副大統領から大統領に昇格した経緯がある。おお、『ER』のあの回はこのエピソードをを下敷きにしていたのだ。今気付いた)。

 で、話はブッシュ大統領に戻るのですが、そんなわけで、彼も「いずれみんなオレに感謝する日が来るさ」と思っている・・・・・・らしいのです。どの程度本気かは知りませんけど、あまり将来の人気ドラマの登場人物に「ブッシュ」という名前が付いているさまが想像できないのは、私の想像力不足か。