『Economist』:エコカー増税

 先月末で終了したエコカー補助金は、もともと環境保護対策というより、業績悪化に苦しむ自動車業界の救済措置という性格の強いものでした。直嶋経産相が「リーマン・ショック後の異例の措置」と認めるように、自動車業界が好調であれば実施されなかったであろう政策です。政府は、この政策の目的は環境負荷の軽減にあると言っていますが、それがあくまで建前に過ぎないことを、大臣自身が語っている。

 もし温室効果ガスの排出量を本当に抑制したいなら、『Economist』も指摘するように、唯一の効果的な方法は炭素税(carbon tax)を課すことです。炭素税は欧州では既に導入した国もありますが、まだ日本では導入していません。もし実施するなら、ハイブリッドカーを含むエコカーも課税の対象になります。それどころか、ゼロ・エミッションを謳う電気自動車も対象になる。なぜなら、たとえ自動車の走行時に排気ガスが出なくても、電力の生成時に出たら同じことだからです。ただ、発電所は遠くにあるから気づかないだけで。

 記事では、イギリスのある電気自動車の場合、ガソリン車に対する CO2 削減量は 20% 程度に過ぎないことが指摘されています。であれば、ガソリン車に対する炭素税 100 に対して、この電気自動車には 80 の税金が課されなければならない。エコカー補助金に値する自動車があるとすれば、それは走らせれば走らせるほど環境が良くなる車だけです。でも人類は、まだそんな夢みたいな車を手に入れていない(今後も手に入れることはない)。もっとも、炭素税がゼロにされるべき車なら今でもあって、それは、自転車です。自転車は、今回のエコカー補助金の対象にはならなかったようですが、CO2 を出すハイブリッドカーが対象になるのに、正真正銘のゼロ・エミッション(こいでる人間の排出する炭素を別にすれば、ですが)である自転車が対象にならないなんて、自転車メーカーは政府に文句を言う権利がある。

 もちろん、記事も指摘するように、増税はいつだって不人気な政策です。炭素税が効果的だと頭では分かっていながら、多くの国がエコカー補助金を出したり減税したりしている。しかし、自動車メーカーが言うように、本当にエコカー環境負荷を軽減するのなら、補助金ではなく炭素税によってもエコカーは同じように社会に浸透するのです。なぜなら、どっちにせよガソリン車よりは安くなるから。しかも、炭素税には、排気ガス放出による外部不経済(要するに他人への迷惑)への対価を負担させるという点で、補助金より社会正義の点で優れている。『Economist』は「補助金はいつでも常に公共資源の無駄遣いだ」と経済的な観点から補助金を批判しますが、補助金はまた、社会的公正の観点からもロクでもない政策だと言わなければならないのです。