ヨドバシカメラとアップルストアの違い

 The Economist の記事より。("The cost of a free ride")

 皆さん、ネットショッピングはするでしょうか? する、という人たちにお聞きしたいのですが、こんな行動を取ったことはないでしょうか。

 まず、下見をするために、実物を置いてある店舗まで出かけていき、買おうとしている商品を眺める。家電など機能の複雑な商品なら店員に根堀葉堀スペックなど聞いて、他社製品との比較情報もゲットする。さらにあたかも買う気があると見せかけて店員に実演もお願いする。そして情報収集が完了次第、速やかに戦線を離脱する。背中に店員の視線が刺さるのを感じても気にしない。後は家でゆっくりとターゲット商品を最安価格で売っているネットショップを探す。

 白状すると、私もこれをやります(ごめんなさいヤマダさん、ヨドバシさん)。いちいち店舗まで出かけるのが手間といえば手間ですが、家電やブランド物の服やバッグなど、金額の大きな買い物をするときには十分ペイする行動ですし、ウィンドウショッピングそのものも気晴らしに悪くない。

 しかし、これはリアル店舗を持っている小売業者にとっては、頭の痛い問題です。そうした業者は、物理的な店舗、キラキラしたディスプレイ、商品知識の豊富な店員といったコストを負担しなければならない。それなのに、インターネット専門の販売業者は、そうしたコストを物理店舗に転嫁することで商品の価格を下げ、フリーライダーになっている。

2009年、イギリスのオンライン家電小売業者 Dixons は、大々的な広告を打った。その内容は、まず店舗でテレビや電子ガジェットを試してから、ウェブサイトでもっと安く買おう、というものだった。(皮肉なことに、Dixons の親会社は、当のオンライン・フリーライダーの犠牲になる物理店舗を経営している。)

 たまったものではない、というのがリアル店舗を持つ業者の本音でしょう。リアル店舗業者、オンラインショップ業者、消費者の三者のうち、リアル店舗業者だけが「一人負け」の状態です。そして、これは経済学的にもフリーライダー問題の典型であるため、リアル店舗業者とオンラインショップ業者の間での公正な競争を阻害する原因になっている。この状態を放置すると、最終的にはリアル店舗の採算が取れなくってどんどん閉鎖され、結局は消費者もオンラインショップ業者も損をすることになる。寄生虫は宿主が死ねば一緒に死んでしまうのです。

 2001 年に、アメリカの二人の経済学者がこの問題を解決する方法を提案しました("Economics and Electronic Commerce")。それが「ハイブリッド・ストア」です。

 この方法は、製品のメーカー自身がリアル店舗のコストを負担するものです。客は、その店舗で製品を試してみることができて、かつ、別にそこで買う必要はない。この方法の好例が、アップルストアです。アップルにとっては、客が自社の製品を買ってくれることが重要であって、どのチャネルから買うかは重要ではありません。従って、リアル店舗で製品をきれいにディスプレイしたり、有能な店員を配置するコストを負担するのに最も適任な主体は、実は製造メーカーだ、というわけです。(アップルストアの店員が、一般の小売店の店員と違って「買え買え攻撃」をしてこないのも、どこで買ってもらっても構わないからです。)

 最近では、自動車業界でもアップルストアのアイデアをまねて、自動車会社自身が市街地にショウルームを開くケースが増えてきているそうです。これは、フリーライダー問題を軽減する上手い方法だ、と言えるでしょう。