社会主義者まかりとおる

 亀井静香という人が何を考えているかというのは、私にはよく分からない。鳩山総理も分かりにくいと言われる人だし、政治家は他人に胸中を簡単に悟られてはいけない仕事なのかもしれないけど、亀井氏の分かりにくさはそういうのとはまた違います。

 警察官僚時代は連合赤軍など社会主義勢力と戦いながらも、その思想自体にはシンパシーを表明し、社会党ともつながりをもっていました。しかしそれでいて政界に転身後は、なぜか長いこと自民党に籍を置いています。それでも社会主義的な思想を捨てたわけではなく、小泉政権のときに郵政民営化に反対して党を追い出されたのは広く知られるところ。そして今回、金融・郵政担当大臣に任命されるや、郵政民営化反対の方針を改めて打ち出したり、中小企業や住宅ローン債務者に徳政令を出すと宣言して、社会主義者としての健在振りをアピールしています(でも昔は闇金業者の五菱会から献金を受けていた)。この人は鳩山内閣にとって振り回されっぱなしになるリスクファクターですが、警察人脈で政治家のスキャンダルを握っているので無下にも扱えない。国家レベルの「困ったちゃん」です。

 思うに、亀井氏はおそらく主観としては「困っている人を助けたい」とか「社会をよくしたい」という善意に従って行動しているのでしょう。でも社会主義の最大の難点は、その善意に基づく近視眼的な行動が結果的に社会全体にとってマイナスに作用してしまうことにある。本人もその矛盾を知らないわけではないので、行動や発言が支離滅裂に映る。

 内外のメディアも、亀井氏に対する困惑は共通して持っていて、リンク先の産経や『Economist』も不穏な雲行きを感じていることが文面から読み取れます。後者は「民主党国民新党との同盟を破棄する覚悟があれば亀井大臣を押さえ込むことは可能なはずだ」と期待をかけていますが、先述のように亀井氏の「警察力」のせいでそれは難しいかもしれない。それでも、同紙が言うように、日本国民は過去へ戻るために民主党に政権を与えたのではない。亀井氏をどれだけ抑えられるかで、今後の内閣の全体の方向性が決まるのです。民主党にとって最重要の仕事は、あろうことか自民党ではなく「身内」の大臣との戦いになってしまった。