あなたの知らない東京裁判:日暮吉延『東京裁判』

今月は終戦記念日に加えて首相の戦後70年談話も発表されたり、玉音放送の原版が公開されたりと、太平洋戦争を回顧する取り組みが例年より多く行われました。70年という節目の年でもあるし、安保関連法案の国会審議が紛糾しているという背景もあって、右も左…

消極的リーダーの戦争責任:勝田龍夫『重臣たちの昭和史』

毎年8月15日が近付くと、各地で戦没者慰霊の式典が営まれたり、メディアが回顧の特集を組んだりして、私たち日本人はいやおうなしに太平洋戦争について考える機会が多くなります。すでに終戦から半世紀以上経過し、当時の状況をリアリティを持って把握するこ…

因果から相関へ:『ビッグデータの正体』

姉さんバブルです。 いろんな会社の営業さんなんかと話すと、とりあえずビッグデータと名前がついていれば仕事や予算の食いつきがいいという状況がまだしばらく続いているようで、何よりな話です。「IoTで集めたビッグデータをNOSQLでリアルタイムに分析」と…

不作為の罪:『なぜ、システム開発は必ずモメるのか?』

システム開発というのは、トラブルの集積です。例外なく。大から小まで、パッケージ開発からマイグレーションまで、もめることのないプロジェクトは存在しません。 みんなそれなりに頭もいいし、人間的にもまともな人たちが集まって仕事をしているはずなのに…

幸せになる働き方:御手洗瑞子『ブータン、これでいいのだ』

本書は、コンサルタントである著者が、約1年間、ブータン政府職員として働いた経験をもとに書かれた見聞記です。実際に住んで現地の人と生活をともにした人ならではの生き生きとした描写が、ブータンの人々への暖かい共感とあいまって楽しみながらブータンに…

初代アンドロイド:ヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』

理想の女を追い求めて破れる男、というのは、古今東西、文学に繰り返し現れるテーマです。ビッグネームだけを追ってみても、古くは『源氏』、近代には『ファウスト』という古典を挙げることができます。前者の主人公は幼女誘拐&監禁飼育という現代のアダル…

教父たちの遺産:八木雄二『天使はなぜ堕落するのか』

評価:★★★★★ 哲学の分かりにくさには、大きく二つの種類があります。一つが、純粋に論理的な難しさ。特に強い論理性への志向を持つ現代の分析哲学などを学ぶと、論理学や数学と類似の難しさを感じます。 哲学のもう一つの難しさは、もう少し根が深く微妙なも…

話しあっても分かりあえないときはブロックしよう:東浩紀『一般意志2.0』

「ブロックせずに他者と渡り合うのが正義」というリベラルな思想は現実性の乏しい理想論というのがぼくのツイッターの見方で、そして一般意志2.0の主張でもある。――東浩紀(2011年12月23日にTwitterで) 本書は、ルソーとフロイトの思想を Google や Twitter…

借金を返さないと何が起こるか:ラインハート=ロゴフ『国家は破綻する』

政府は少なくとも 100 年に一度は、財政均衡を回復するためにデフォルトを起こさなければならない。――アベー・テレ(18世紀のフランスの蔵相) 向こう見ずな個人が借金に借金を重ね、債務を膨れ上がらせると、まず最初に、貸し手がいなくなります。新しい貸…

コンピュータをぶっ壊せ:新井紀子『コンピュータが仕事を奪う』

前回に引き続き仕事について: ここ数年、というかもう十数年、日本の経済についてはあまりいいニュースがありません。震災の影響は別にしても、その前から日本は長期停滞街道を驀進しており、私のような団塊ジュニア世代ともなると、十代の頃から不況しか知…

なぜ日本人はサービス残業が好きなのか:速水融『歴史人口学で見た日本』

日本と欧米の産業構造の比較をしたとき、両者の差として指摘されることに、前者は労働集約的で後者は資本集約的、というものがあります。平たい言葉で言うと、コストに占める割合として、人件費(労務費)が高いか、固定資産費(設備費)が高いか、という違…

『Economist』:愛と法

2006 年 2 月 19 日、キミコとテツオの夫婦は、大阪のラブホテルにチェックインした。二人は鎮静剤を大量に飲み、手首を切ったが、真夜中に覚醒し、自殺が失敗したことに気づく。テツオはキミコの要求に従って、彼女の首を絞めた後、再び手首を切り、首をつ…

太陽を追いかけて:有馬哲夫『原発・正力・CIA』

読売新聞は、5/21 付けで「東電巨額赤字 国も原発賠償に連帯責任を」という社説を掲載しました。タイトルが示すとおり、政府も原発事故に責任を負うべき、と主張する内容です。その根拠は社説本文において明示されていないのですが、おそらくこれまでの歴代…

無敵のラスボス:山本七平『「空気」の研究』

東日本大震災は、長らく平和を享受してきた私たち日本人が、久しぶりに経験した非常事態です。この点に異論のある人はいないでしょう。非常時には、平時には見られない特異な現象が矢継ぎ早に起きます。原子力発電所の外部へ放射能が漏れたことによる退避勧…

静止した時の中で:野口悠紀雄『1940年体制』

一般に「日本型経営」と呼ばれる経営の形態があります。終身雇用と年功序列を柱とした、平等主義的かつ家族主義的なコーポラティズムの企業経営版です。戦中から高度経済成長期までの日本経済発展の基盤となった一方で、最近では、日本の経済的停滞の原因で…

経験主義は死なず:ナシーム・タレブ『強さと脆さ』

「先賢の教え」という言葉があります。色々な経験を積んできた年長者は、若造が持ち合わせていない知恵や技術を持っている。砕けた言い方をすると「お婆ちゃんの知恵袋」です。リーマン・ショックを予測した金融界の鬼才タレブが勧める生存戦略は、「お婆ち…

神の見えざる脳:ジェームズ・スロウィッキー『「みんなの意見」は案外正しい』

集合知という概念は、現在では非常にポピュラーなものになりました。特にインターネット上では、ユーザがコンテンツ作成のプロセスに関与する Web2.0 の仕組みを正当化する重要なアイデアです。そして実際、集合知がかなり機能することも、多くの事例から実…

あの輝きをもう一度:小沢一郎『日本改造計画』

日本の政治家の書いた本はつまらない、とよく言われます。論旨不明瞭でどんな政策を訴えたいのか分からない、脈絡のないエピソードの継ぎ合わせだ、と。しかし、政治家の本にも、読んで面白い例外が二冊あります。それが、著者の師である田中角栄の『日本列…

論理はいかにして空気に敗れ去ったか:猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』

かつて、日本の皇室が同時に二つ存在していた時期があることは、広く知られています。南北朝時代と呼ばれる50年ほどの期間で、歴史の授業で習うので皆さんもよくご存知でしょう。では、日本に内閣が同時に二つ存在した時期があることは、知っているでしょう…

過剰な世界の倫理学:堀江貴文『拝金』

奢侈、浪費、淫乱 ―― そして拝金。歴史上ほとんどの期間のほとんどの場所において、こうした人間が持つ強欲やエゴイズムは、倫理的に非とされてきました。人類はその生活の 99% の時間を圧倒的な欠乏の中で生きてきたため、私たちの「古い脳」には節制や禁欲…

リベラルからの挑戦状:マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』

先月、菅首相が就任演説を行った際、目指すべき社会のスローガンとして「最小不幸社会」という言葉を使ったことは、記憶に新しいところです。ただ、それが具体的にどのような社会なのか、詳しい説明がないので、中身は推測するしかありません。 最小不幸社会…

天皇にも基本的人権を:小谷野敦『天皇制批判の常識』

天皇制と聞いて普通の人が持つイメージというのは、女性週刊誌がよく特集しているような、徹底的に瑣末なエピソードの寄せ集めとか、「下手なこと喋ると右翼から家の窓に弾丸打ち込まれるかも」という得体の知れない漠然とした不安とか、その程度のものです…

見えないものを見る力:大竹文雄『競争と公平感』

日本は、社民党や共産党のような社会主義政党が与党になった経験の少ない国です。あるとしても、鳩山内閣における社民党のように、連立政権における小党という位置づけで、こうした政党が国策全体に及ぼす影響力は大きくありません。実際、歴史的に見ても、…

ハードなだけでは生きてゆけない:西田宗千佳『iPad VS. キンドル』

2010年1月28日、アップルはタブレット型 PC の iPad を公表し、Amazon のキンドルとソニーのソニー・リーダーの 2強が支配していた電子書籍市場に参入を果たしました。iPad 自身は、あくまで「キーボードのない PC」というコンセプトの汎用製品であり、電子…

すべてがゼロになる:クリス・アンダーソン『フリー』

「無料」という言葉には、人間の心を惹きつけてやまない特別な響きがあります。そのことは私たちの誰もが経験的に知っていることではありますが、最近はこの事実を裏付ける実証データも蓄積されてきています。例えば、ダン・アリエリーは『予想どおりに不合…

フリーランチとトレードオフ:岩瀬大輔『生命保険のカラクリ』

手数料、というものをご存知でしょう。休日に銀行を利用したり、外貨両替をすると取られるアレです。もっと大きいところでは、ローンを組んだり投資信託を買うときにも取られます。この手数料は、普通は幾らかかったか分かります。しかし、日本の金融商品の…

欲望の制御装置としての資本主義:ミルトン・フリードマン『政府からの自由』

最近、フリードマンの『政府からの自由』をパラパラと読んでいます。彼の著作の中では、『資本主義と自由』や『選択の自由』に比べると知名度が低いし、日本でも絶版なので若干かげの薄い本ですが、どうして素晴らしい内容です。専門的な論文ではなく、『ニ…

仕掛けられた罠:若桑みどり『お姫様とジェンダー』

ずっとたなざらしにしていた若桑みどり『お姫様とジェンダー』を読了。私は、美術史家としての若桑みどりは大好きでファンなのですが、フェミニストとしての発言があまり好きではなく、この人のフェミニズム関係の著作は(『戦争がつくる女性像』のような歴…

選択の自由なんてただの幻想です。お偉方にはそれが分からんのです

小谷野さんが『美人好きは罪悪か』で誉めていた山崎朋子『サンダカン八番娼館』を読んでいます。非常に読ませる筆力と迫力があり、ぐいぐい読み進んでしまう。こんな良い本を今まで知らなかったのが悔しい。持つべきものは頼りになるレビュアーです。 しかし…

いつから私たちは他人を蹴落とさなければいけなくなったのか:竹内洋『立志・苦学・出世』

私たちの人生は、試験、すなわち選抜によってその航路が大きく決定づけられます。多くの人が最初にその選抜を経験するのは学校受験でしょうが、スポーツや芸術の世界でもやはりプロテストやコンクールなど、選抜に勝ち抜くことが最重要の課題とされています…

科学としての心理学

チャルディーニの名著『影響力の武器』の続編『影響力の武器 実践編』が届いたので、早速読み始めています。前作からずいぶん待たされたけど、その分期待を裏切らない。楽しー。 タイトルだけ見ると怪しげなビジネス書のような印象を受けますが、そんなのと…

殺したのがブスだったら…:小谷野敦『美人好きは罪悪か』

いまの日本で公然と差別することが許されている領域は、学歴と年齢と容姿です。「公然と」の意味合いは、だいたい「テレビのバラエティ番組を見ていると出てくる」というのと同義です。クイズ番組では「高学歴」と「低学歴」でチームわけをするのは普通だし…

鈴木亘『だまされないための年金・医療・介護入門』補遺

tonnyさんという方から、以前、鈴木亘さんの『だまされないための年金・医療・介護入門』を紹介したエントリに対して、「積立方式のデメリットを説明しないまま積立方式を礼賛するのはフェアではない」というトラックバックをいただきました。これはもっとも…

幸福を秤にかけよう:ハロルド・ウィンター『人でなしの経済理論』

1978年、アメリカでフォード社のピントという車を運転していた 16 歳から 18 歳の 3 人の女の子が、他の車に追突されて死亡する事故がおきました。この事故を担当した検事は、前例のないことをやります。フォード社を無謀殺人罪で告訴したのです。一般にフォ…

盛者必衰って本当ですか:クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』

当時、客に何が欲しいかと訊ねたら、速い馬がほしいと言われただろう。 ―― ヘンリー・フォード(自動車メーカーのフォードの創業者) ある企業が、まったく無名のベンチャーやバラック同然の町工場から出発して、ライバルとの数々の闘いに打ち勝ち、業界を代…

損得勘定が地球を救う:ビョルン・ロンボルグ『地球と一緒に頭も冷やせ!』

ロンボルグの名前は、もういまさら私なんかが宣伝する必要はないでしょうが、それでもこの本はやっぱり紹介しておきたい。地球温暖化を含む環境問題について何かを考え、論じるときの、一番基本的な「スタンス」を教えてくれる本だからです(そして実は、そ…

だまされる側の責任:鈴木亘『だまされないための年金・医療・介護入門』

先月、厚生労働省が年金給付水準「50%台可能」とする試算を発表したとき、その前提条件の甘さが話題になりました。その条件とは、 名目賃金が毎年2.5%上昇する。 年金積立金は4.1%の利回りで運用できる。 合計特殊出生率は1.26で推移する。 これは「中位」の…

負け組みのリアリズム:西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』

私が西原理恵子の本を最初に読んだのは、高校生のとき。『まあじゃんほうろうき』という連載物のルポ(?)でした。ある意味、非常に鮮烈な印象を受けたのですが、それは別にこの本がすばらしくて心うたれたとか、そういうものではなく、むしろほとんど誉め…

新入生のための宗教ガイド:島田裕巳『平成宗教20年史』

ほとんどの人が無神論(というか無宗教)の日本人にとって、ナマの宗教(特に新宗教)に初めて向き合う経験をする場所は、大学のキャンパスでしょう。地方から出てきたばかりで頼れる知人もなく不安でいっぱいの新入生は、宗教の側から見ても格好の勧誘標的…

毒入りピースミール工学:パオロ・マッツァリーノ『日本列島プチ改造論』

日本が誇る謎のエンタメ系学者マッツァリーノ待望の新刊が発売され、先ほど一気読みを終えました。この人は私にとって、「ワクワクしながらページをめくる」という得がたい経験をさせてくれる数少ない書き手の一人です。寡作なのが惜しいけど、でもその分ク…

サンソンの奇妙な冒険:安達正勝『死刑執行人サンソン』

日本で死刑執行人と言えば、時代劇によく出てくる「首切り浅」こと山田浅右衛門が知られています。彼は江戸から明治に活動(というのもおかしいけど)した人物ですが、時代と場所を問わず、死刑制度あるところにまた処刑役人もあるわけで、現代の日本でも、…

下流フェミニズム宣言:小倉千加子『結婚の条件』

フェミニズムが女性が自立することを説き、自由を求めることを支援するイデオロギーだ、ということは、今では皆さん(頭では)ご存知でしょう。でも、そのフェミニズムにも上流と下流があるということは、あまりおおっぴらには語られません。具体的に名指し…

受験国語の必勝法、教えます:石原千秋『秘伝 中学入試国語読解法』

さて、そろそろ受験シーズンも佳境に入ってまいりましたね。本日は、珍しく速攻で受験(もっと狭く言うと中学受験の国語)に役立つハウツー本を紹介いたしましょう。受験生諸君および親御さんは必見ですぞ。その名も『秘伝 中学入試国語読解法』。新潮選書と…

早すぎた文化人類学者:ハーマン・メルヴィル『白鯨』

この小説を私が初めて読んだのは、中学生のとき。そのときは、海洋冒険小説としてしか読むことができませんでした。いや、確かに海洋冒険小説でもあるし、そのジャンルでも第一級の作品で、十分楽しく読むことはできたのですが、でも、それはこの小説の一部…

暗く狭いバケツの底:町山智浩『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』

『ER』の第2シーズンを見ていたとき、二つ、アメリカ特有の社会事情が背景にあって理解できなかったシーンがありました。一つは、貧民街のアパートでアタマの弱い主婦が何かの薬品を製造していたことが原因で火事が起きるエピソードなのだけど(救急隊員のラ…

歌われなかった者たちへの賛歌:福岡伸一『できそこないの男たち』

福岡伸一『できそこないの男たち』を読了。前作『生物と無生物のあいだ』が消化にまつわる謎から生物の本質に迫る名著だったのに対し、今回はヒトゲノムにおける男性決定因子であるY染色体の仕組みとその発見にまつわる科学者たちのドラマがテーマ。前作の熱…

やっぱり欧米か:渡辺利夫『新脱亜論』

リーマン・ブラザーズの破綻によるアメリカ経済の混乱は、まだ収まる気配を見せません。これがアメリカにとって致命傷になるとは思えないけど、でも9.11以来の大打撃であることは間違いない。傷痕は長期にわたって残るかもしれない。 アメリカもそろそろ終わ…

憧れと恨みと:竹内洋『丸山眞男の時代』

竹内洋『丸山眞男の時代』を読了。非常に面白かった。私が学生の頃は、ちょうど丸山眞男の没後すぐということもあって追悼特集が多く組まれ、丸山は ―― 時代が時代なのでさすがに素直な読み方はされなかったけど ―― けっこう学生にも読まれていました。今は…

労働とセックスの怪しい関係:玄田有史・斉藤珠里『仕事とセックスのあいだ』

現在の少子化の一因は、労働環境の悪さにあるのではないか、という意見は、前からたびたび出てはいました。誰だって毎晩10時、11時まで働いてクタクタに疲れて帰ってきた後にセックスに励む元気なんてないし、90年代以降の不況で、一人あたりの労働時間が大…

犯罪者の機会損失を増やすには:谷岡一郎『こうすれば犯罪は防げる 環境犯罪学入門』

さて突然ですが、犯罪とセキュリティについての○×問題です。次の文が合っているか間違っているか、できれば理由とセットで考えてみてください。 同じ学校にバスと電車で通学する高校生では、バスで通学する子供の方が万引きに走りやすい。 マンションやアパ…